カレシの塁くんはあたしの唇を求めてない
塁くん達は男子五人で作業をしている。けれど、そこには何故か八枝さんの姿があった。八枝さんは塁くんにベッタリくっついて、支える役割をしていた。
「……………」
八枝さんの担当は衣装作りだったはず。
自分の持ち場から離れて作業をしている八枝さんを見て、塁くんが好きなんだということが分かってしまった。
「八枝さん、なんでここにいるの?」
いつもは言い返したりなんてできないけど、つい、聞いてしまった。今は嫌で嫌でたまらない。
塁くんに対して何かをされるのがとてもイヤだ。
八枝さんはあたしの方に顔を向けた。
「少し中覗いたら大変そうにしてたから支えてただけただけど?」
「他の男子に任せたら? あたし、呼んでくるよ?」
「他の男子に頼るほど、大変な作業じゃないよ」
「で、でも八枝さんは衣装作りなんだし、途中で抜けられたら皆困るんじゃないの?」
「はあ??」
「実際、あたしも八枝さんにいっつも途中で掃除抜けられて困ってたし……そういう、自分勝手なところよくないよ」
八枝さんは目をまん丸くしてあたしを見ている。
……言った。言ってしまった。どさくさに紛れて八枝さんに、想っていたことを言ってしまった。