カレシの塁くんはあたしの唇を求めてない
あたしと八枝さんのやり取りを聞いていた塁くんが、「兼元、ちょっとまって。オレが引き止めたから、今回は八枝は悪くないよ」と、八枝さんを弁護した。
まるであたしが勝手に八枝さんを作業をしない人だと決めつけているようで、自分自身が浅ましく感じる。
塁くんにはこういうところ見られたくなかった。きっと塁くんの、あたしに対しての評価はだだ下がりになったに決まっている。
恥ずかしくて顔を真っ赤にして
「ご、ごめん……」
八枝さんに謝るが、八枝さんの不満気な顔は変わらない。
「それ、私に謝ってるんじゃないよね?」
八枝さんには私の心が見透かされていた。そんなあたしを庇うように、塁くんが仲裁に入る。
「八枝、今のは兼元の勘違いだったしちゃんと謝ってる。けど、八枝は掃除の仕事を兼元達に押し付けた挙げ句、兼元に『ごめん』を言えてないよな。信頼を無くしても仕方がないと思う。オレも多分、兼元の立場なら八枝を信用できない」