通学路
 式が始まり、卒業証書授与が一組、二組と進む。
 担任の前田佳代がマイクの前に移動するのを目で追った。

「三組、赤坂敬斗」
「はい!」

 一番は敬斗だ。さすが運動部だけあって、声がよく通る。短く、はっきりと、他のクラスの誰よりも大きな声で返事した。

「井上ゆ……優真」

 一瞬、担任の声が震えた。涙脆い担任なのだ。最後の自分の番まで大丈夫だろうか、と心配しながら琴梨は見守っていた。

「渡部琴梨」
「はい!」

 卒業証書を受け取り階段を降りると、目を真っ赤にした担任から「おめでとう」と声をかけられた。
 席に戻る途中に目が合った敬斗が白い歯を見せる。
 きっと、今朝のあのことだろう。

 式も終わりに近付き、ピアノの伴奏が始まると、真っ先に俯いたのは――敬斗だった。
 背の高い敬斗の横顔がはっきりと見える。
 俯き加減で歌う敬斗の頬には涙が光っていた。
 ここには、たくさんの思い出がつまっているのだろう。

 敬斗の中学生活はサッカー漬けの日々だった。サッカー部は、運動部の中でも特に力を入れて活動していた。その中でも、敬斗が誰よりも努力していたことを琴梨は知っていた。
 その甲斐あって、敬斗はサッカー強豪校への推薦入学が決まっていた。

 今日で本当に最後なんだ……

 琴梨の目にも再び涙が溢れた。

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