婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 出迎えてくれた執事や侍女が驚くほどの速度で自分の部屋に戻り、手早く着替えをする。
 もちろん、父の手先である執事や侍女が入ってこられないように、扉は魔法で施錠済みだ。
 夜会用のドレスを脱ぎ捨てて、クローゼットを開いた。手頃な鞄を取り出して、旅支度を始める。
「うーん、動きにくそうなドレスしかないなぁ」
 父の命令なのか地味なドレスばかりだが、それでもさすがに貴族令嬢だ。普通に町を歩けるようなものではない。
「仕方ない。これでいいかな?」
 その中でも一番質素なドレスに着替えると、クローゼットにあった宝石をすべて袋に入れる。さすがに無一文ではすぐに野垂れ死にだ。
 クロエに与えられたものなど微々たるものだが、課金すれば当面の生活費にはなるだろう。
 そして、寝室の窓から外に出た。
(お父様、お兄様、さようなら。もう二度とお会いしませんように)
 クロエの人格しかなかった頃はおそろしくて仕方がなかった父と兄だが、今では不当な扱いに対する怒りしかない。
 もちろん、婚約者だったキリフに対しても同じように。
 それぞれがそれなりにイケメンで、自分に自信がありそうなところも嫌いだ。
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