婚約破棄されたので、好きにすることにした。
すると脳裏に浮かんだのは、なぜかふたつの名前だった。
ひとつは、橘美紗。
二十八歳で、地方の公務員をしていた。
趣味がたくさんあって、休日はいつも外出しているような、活動的な人間だった。
もうひとつは、クロエ・メルティガル。
メルティガル侯爵家の娘で、このアダナーニ王国の第二王子、キリフの婚約者である。
クロエの年齢は十七歳。
気弱でおとなしく、父や婚約者のいいなりだったようだ。
(ああ、そうだった……)
名前を思い出すと、少しずつこの状況が理解できるようになった。
「今」の自分の名前は、クロエ・メルティガルだ。
色素の薄い金色の髪に、水色の瞳。白い肌。
全体的に色彩が薄く、ぼんやりとした印象でおとなしい娘だったので、周囲からは地味な令嬢と蔑まれていた。
父であるメルティガル侯爵は騎士団長で、これがまた絵に描いたような男尊女卑の男だ。
大切なのは、息子たちだけ。
娘である自分はもちろん、妻である母でさえ、父にとってはただの道具に過ぎない。
目の前に立って、こちらに凍りつくような視線を送っているこの青年――。第二王子キリフとの結婚を命じたのも、その父だ。
ひとつは、橘美紗。
二十八歳で、地方の公務員をしていた。
趣味がたくさんあって、休日はいつも外出しているような、活動的な人間だった。
もうひとつは、クロエ・メルティガル。
メルティガル侯爵家の娘で、このアダナーニ王国の第二王子、キリフの婚約者である。
クロエの年齢は十七歳。
気弱でおとなしく、父や婚約者のいいなりだったようだ。
(ああ、そうだった……)
名前を思い出すと、少しずつこの状況が理解できるようになった。
「今」の自分の名前は、クロエ・メルティガルだ。
色素の薄い金色の髪に、水色の瞳。白い肌。
全体的に色彩が薄く、ぼんやりとした印象でおとなしい娘だったので、周囲からは地味な令嬢と蔑まれていた。
父であるメルティガル侯爵は騎士団長で、これがまた絵に描いたような男尊女卑の男だ。
大切なのは、息子たちだけ。
娘である自分はもちろん、妻である母でさえ、父にとってはただの道具に過ぎない。
目の前に立って、こちらに凍りつくような視線を送っているこの青年――。第二王子キリフとの結婚を命じたのも、その父だ。