婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 婚約者になることはできたが、実際に結婚するまでは安心できない。どんな手段を使っても、王子の心を射止めろ。
 父にそう命じられたが、今まで父と兄以外の異性と話したことのないクロエには、どうしたらいいのかわからなかった。
 ただ王子に付きまとい、何とか自分の存在を王子に認めてもらおうとした。
 それは逆効果でしかなかったと、クロエではないもうひとりの自分が呆れている。
 記憶を巡らせてよく考えてみると、橘美紗というのは、クロエの前世のようだ。
 日本という国でごく普通の生活をしていた美紗は、原因はまったく思い出せなかったが、死んでしまったらしい。
 そして、このクロエという少女に転生した。
(異世界転生って、本当にあるのね?)
 座り込んだまま、建物にも視線を巡らせる。
 ヨーロッパ風の、美しく豪奢な王城。
 周囲にいる人たちも皆、華やかなドレスを着ている。
 どうやら美紗は、ファンタジー漫画のような世界に、侯爵家の令嬢クロエとして生まれたらしい。
 そんなクロエだったが、何だかとてつもないショックなことがあって、それが原因で前世を思い出してしまったようだ。
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