婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 自分は王子だから、浮気をしても許されるとでも思ったのだろうか。
(さて、どうしよう?)
 冷たい目で見降ろすキリフを見上げながら、クロエは思う。
 公衆の面前でこんな失態を犯した娘を、婚約者であるキリフに取り入るどころか激怒させたクロエを、父は許さないだろう。
 婚約者に手を振り払われたとき、覚えのある痛みだと思った。
 おそらく父は、娘に手を上げている。
 クロエはそんな父が恐ろしくて、ただ言われるままキリフに付きまとったのだ。
(こうしてみると、クロエだって彼に恋心なんて抱いていないわね。ただ、父親が怖いから命令に従っていただけだわ)
 むしろこんな婚約は、どちらにとっても不幸になるだけだ。
 きっとこのまま結婚しても、彼は浮気をする。
 クロエは、お飾りの妻でしかないだろう。
 もし結婚しなかったとしても、あんな家族と一緒にいてしあわせになれるとは思えない。
 せっかく生まれ変わったのだから、もっと人生を楽しみたい。
 それに、クロエはどうやら魔法が使えるようだ。
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