婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 クロエの記憶としては、何となく自分の中に宿る魔力の存在に気付いていながらも、その力が怖くて、必死に隠していたようだ。
 だからクロエが魔法を使えることは、婚約者であるキリフはもちろん、父も知らないだろう。
 この国では魔法が使える者はほんの一部しかいない。
 もし周囲が、クロエが魔法を使えることが知っていれば、その評価はもっと違うものになっていただろう。
 だがこの魔法があれば、貴族ではなくなっても生きていける。
(平民として、冒険者になるのも楽しそうね)
 家を出よう。
 そして、好きに生きよう。
 そう決意したところで、キリフは苛立ちを込めて言った。
「お前がそんな女だとは思わなかった。態度を改めないのならば、婚約を解消するしかないな」
 態度を改めなければならないのは、どちらか。
 思わずそう言いそうになるのを、何とか堪える。
 ここでクロエが反論すれば、ますます興奮して喚きたてるに違いない。それはとても面倒だし、周囲の人たちにも迷惑だ。
(まぁ、興味本位で眺めている人と、他人の不幸が大好きな人たちばかりみたいだけど)
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