婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 女性の扱いから考えても、ここはあまり良い国ではなさそうだ。
 おそらく父はキリフに、従順で、何でも言うことを聞くおとなしい娘だと言っているのだろう。
 この国では、いまだに女は男の言うこと聞くべきだと思う者は多い。
 婚約者であるキリフも、そういう男性だった。
 それでも今は、王妃を中心に女性の社会進出が推奨されている。女性を侍女としてだけではなく、文官として雇用する案も出ているくらいだ。
 それなのに、側妃の子とはいえ、よりによって第二王子であるキリフが、父と同じような残念な頭をしていたとは。
 だが、せっかく向こうから婚約破棄を申し出てくれたのだ。
 ここは全力で乗っかるべきだろう。
「はい、承知しました」
 そう言って、立ち上がる。
 今まで絶望の表情を浮かべて嘆いていたクロエが、急に満面の笑みで立ち上がったのだ。
 当然のように周囲は騒めいた。
「何だと?」
 向こうの案を承諾しただけなのに、なぜかキリフは激高した。
「私に逆らうつもりか!」
 逆らうも何も、婚約を破棄すると言われ、それを承諾しただけなのに、どうしてそんな言葉が出てくるのか。
 クロエは首を傾げた。
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