婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 彼の思考が理解できない。
「私は殿下のお言葉に従うだけです。殿下が婚約を解消するとおっしゃるのであれば、それを受け入れます」
 それだけ告げると、踵を返してその場を立ち去る。
(さてと。これから忙しいわ。お父様に見つかる前に、屋敷を出て行かなくては)
 見つかってしまえば、激怒した父にどんな目に合わせられるかわからない。キリフに許しを請うように、命じられる可能性もある。
(そんなのは嫌。私はこれから自由に生きるのよ)
 前世の記憶が蘇る前のクロエは、あまりにも従順すぎた。今のクロエは、自分を虐げる人間に黙って従うべきではないと思う。
「ん?」
 ふと何かに気が付いて、クロエは会場を見渡した。
 どこからか魔法の気配がする。
 誰かがこちらを監視しているのかもしれない。
 些細なものだが、今のクロエには目障りだった。
「消えて」
 クロエが呟いただけで、その魔法は霧散する。
(うん、これでいいわ)
 監視の目が完全になくなったことを確認して、再び走り出した。

 魔法を使える者には、三種類の人間がいる。
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