私の彼氏,ちょっぴりクズっぽい,です。
目がバッチリと交わって。

信じられないくらい高揚した気分が目蓋を大きく持ち上げる。

佐久間煌芽と一対一での対面なのに,うっかり顔を全部とーかちゃんに向けてしまって。

俺は負ける気がしないと,佐久間煌芽へ笑みを向けた。

佐久間煌芽が,びくりと身体を揺らす。

突然のことで,不気味にすら映ったのかもしれない。

今この瞬間。

お願いした通り,あの子の瞳に映っているのが俺だけだと確信した。

どうしよもなく嬉しくて,失った体力も全て全快して。



「佐久間煌芽」



最後にひとつだけ,教えてあげることにする。

ボールを見ながらも,薄く反応していることを確認して,俺はまたふっと笑った。



「大事なら,ちゃんと繋いでおかなくちゃ。ふらふらしてるから,ほら……とーかちゃんはもう,お前のものにはならないよ」



もう,戻らない。

そうなる前に,俺が全力でとーかちゃんを落とす。

俺は佐久間煌芽へ,にっこりと笑いかける。

我ながら意地が悪い。

でも,もとはと言えば隙を見せた佐久間煌芽が悪い。

だから,お互いくそみたいな人間だけど。

人生における大損失レベルで間違えてくれたのは,ありがとう。

これは心からの,俺のきもち。

もう全部手遅れだ。

佐久間煌芽の裏切りから始まって。

俺が止めないで,早めて,そう仕向けた。

次に選ばれる自信があったわけじゃない。

今も別にそんなものはない。

あるのは,とーかちゃんの特別が欲しい,その気持ちだけ。

突然の言葉に衝撃を受け,驚いた佐久間煌芽は,それでもマークを抜けに走る俺に遅れず反応する。

動きなんてとっくに読んでいた俺は,佐久間煌芽を背に置き去りにした。

追いかけてくるその足は,もう俺を捕らえられない。
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