ヒスイのさがしもの



「もう一度言うが、ここは『かみさまのせかい』だ。つまり人間の君は異物である。……いや、異物というよりーーそうだな……」


 男の子が悩んでる間に、私をつつきに来た神様をつつき返してみた。すると神様の一つ目は()(えが)き、小さな口から楽しそうな声をもらす。かわいい。


「まぁ、神様からしたら人間はペットの動物みたいなものか。君は『にんげんのせかい』というケージから飛び出してきた迷い人間で、神様からすれば野良(のら)人間だな」


 野良人間……。あんまりうれしくない響きだ。


「で、人によって動物をかわいがったり嫌ったりするよな」


 うんうん。その通りだ。犬好きもいれば犬嫌いもいる。ちなみに私は犬が大好きだ。


「もちろん、食べたりもするし、大好物だって人もいる」


 うんうん。確かに。犬を食べる国もあるっていうし、そもそも牛や豚はスーパーにだって並んでいる。


「だから、くれぐれも気をつけろ」


 うんう……ん? 気をつけろ?


 男の子の視線は、私から少しズレたところに向いている。それを追って横を見ると、そこにはさっきのかわいい神様ーーだった、はずなのに。


 それは、(はし)が見えないほどに大きな口を開けて、私に飛びかかってきた。


 とっさに動けずにいると、男の子は犬に姿を変え、素早く私を口にくわえる。背中にもお腹にも、牙のあたる感覚。その気になれば私を()み殺すのなんて簡単だろう。

 男の子は、屋根を渡ってその場を去る。私は抵抗もできないまま、身を(ゆだ)ねるしかなかった。


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