ヒスイのさがしもの
まっさかさま
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男の子はしばらく走ったあとで、また私を乱暴に落とした。そして姿を人へと変える。
「さ、さっきのあれが、神様なの?」
「ああ。ここにいるのは、みんな神様だ」
まさか神様に食べられそうになるなんて。さっきいたナニカたちが、全部、神様。そうなると、思い至って当然の疑問が浮かぶ。
「それなら、あなたも……?」
「……さて、それはどうかな」
男の子は、また正体をはぐらかす。でも、どこかかげのあるその表情に、問い詰める気にはなれなかった。
「……じゃあ、せめて名前くらい、教えてくれても……」
「灯真」
意外にもあっさりと教えてくれて、面食らう。
「トウマ、さん?」
「それ、面倒だろ。トウマでいい」
「……トウマ」
普段は、会ったばかりの人の名前を呼び捨てなんてしない。なんとなく、発するのをためらってしまう。
「君は、なんだっけ? ひすい?」
「ヒスイ……合ってるけどーーと、トウマの言い方は石の翡翠。私の名前は、キウイと同じアクセントで、ヒスイ」
言ってから、はっとした。細かくて面倒だと思われたかな。でも私の名前は、お母さんが遺してくれたものだ。だからいいかげんにしたくなかった。