ヒスイのさがしもの
「……はぁー……本当に、難儀な奴……」
トウマに迷惑をかけるのはわかってる。自分にそんな力がないこともわかってる。
それでも、私は知ってしまったから。紅ちゃんはきっと今も泣いている。見捨てるなんて嫌だった。
「……私は、よもつへぐいで帰れないかもしれない。そのときは、紅ちゃんだけでも帰らせてあげてくれる?」
「嫌って言っても聞かないだろ? どうせ」
「……うん、聞かない」
「……ま、おまえを帰すことが俺の目的なのは変わらないから、紅だけ帰すなんてのはありえないけどな」
やっぱりトウマは優しい。いちいちひねくれてるけど。
「もうすぐウツギサンのところに着く。そうしたらおまえが帰るためにどうするべきかもわかるはずだ」
ウツギさん。どんな神様かわからないけど、私が頭に刻んだことは一つ。
ーーウツギさんは人間嫌い。つまり今度こそ、きちんと警戒して対峙しなければと思う。
話してる間にずいぶん高いところまで来た。山の頂上にウツギさんはいるのだろうか。目をこらしたとき、不自然な風が吹く。舞い上がる木の葉で視界が遮られた。
「やぁ、おかえり」
何も見えない中で聞こえた知らない声は低く穏やかで、しかしどことなく冷酷さを孕んだ響きだった。