ヒスイのさがしもの



「……はぁー……本当に、難儀(なんぎ)な奴……」


 トウマに迷惑をかけるのはわかってる。自分にそんな力がないこともわかってる。

 それでも、私は知ってしまったから。紅ちゃんはきっと今も泣いている。見捨てるなんて嫌だった。


「……私は、よもつへぐいで帰れないかもしれない。そのときは、紅ちゃんだけでも帰らせてあげてくれる?」

「嫌って言っても聞かないだろ? どうせ」

「……うん、聞かない」

「……ま、おまえを帰すことが俺の目的なのは変わらないから、紅だけ帰すなんてのはありえないけどな」


 やっぱりトウマは優しい。いちいちひねくれてるけど。


「もうすぐウツギサンのところに着く。そうしたらおまえが帰るためにどうするべきかもわかるはずだ」


 ウツギさん。どんな神様かわからないけど、私が頭に刻んだことは一つ。

 ーーウツギさんは人間嫌い。つまり今度こそ、きちんと警戒して対峙(たいじ)しなければと思う。

 話してる間にずいぶん高いところまで来た。山の頂上にウツギさんはいるのだろうか。目をこらしたとき、不自然な風が吹く。舞い上がる木の葉で視界が(さえぎ)られた。


「やぁ、おかえり」


 何も見えない中で聞こえた知らない声は低く穏やかで、しかしどことなく冷酷さを(はら)んだ響きだった。


< 33 / 53 >

この作品をシェア

pagetop