ヒスイのさがしもの



「あの、でも私、よもつへぐいをしてしまって……」

「よもつへぐい……黄泉の国での話のことか。ここは幽世(かくりよ)、黄泉の国ではないよ」


 私がいたのが現世(うつしよ)で、かみさまのせかいが幽世(かくりよ)

 たしか黄泉の国というのは、死後の世界のことだ。死後の世界なんてハッキリとイメージしたことはないけれど、幽世が存在しているのだから黄泉の国もきっとあるのだろう。

 それにしてもウツギさんの言い方からすると、幽世の食べ物は食べても問題ないということだろうか。


「それじゃあヒスイは帰れるってことか?」

「ああ、帰りたいのなら今すぐにでも」

「い、今すぐ?」


 ウツギさんがあまりにも簡単に言うから、面食らった。

 あんなに不安だったのに、まさかよもつへぐいの心配がなくなったどころか、すぐに帰ることができるなんて。


「そうだよ。ヒスイをこちらに呼んだのは私だからね」

「えっ……」


 ウツギさんは淡々とした声色で話すが、その内容にさっきから私は驚かされてばかりだ。

 私の横で、トウマは眉をひそめながら口を開く。


「ウツギサンが、ヒスイを? 俺が連れてこようとしたからか?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「……理由を教える気はないってことか」

「ふふ、神様は気まぐれなんだ」


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