ヒスイのさがしもの



 立場が逆転してしまった。


「う、ううん……もちろん、知らないよ」

「幼い頃に、俺に似た子どもと知り合いだったりしなかったか?」

「えっ……と、どのくらい小さい頃のことかな。昔のことはあんまり覚えてないよ」

「昔って言っても……せいぜい7年前くらいだ。小学生になった頃の記憶は?」

「うーんと……覚えてないや……小学校に入ってすぐ転校して、それからの記憶はあるんだけど。その前のことは全然」

「……そんなものか? 人間の記憶って案外もたないな」


 言われてみれば、確かに。私、小さい頃の記憶が全然ない。

 小学生になってから引っ越したけど、前はどんなところに住んでいて、どんな風に過ごしていたかも思い出せない。昔の記憶といえば、お母さんのことが大好きだったことだけは覚えている。

 ふと、ウツギさんの言葉が脳裏に浮かぶ。


『君は大切なことを忘れているよ』


 もしかしたらそれは、小さい頃の記憶のことなのかもしれない。そしてその中に、人間だった頃のトウマがいるかもしれない。

 ……そうだとしたら。ウツギさんは言っていた。


『返してもらうよう、頼むといい』

『君を呪っているモノに』ーーと。


「……私を呪っているモノって、ヘアピンなんだよね」

「そうだ」

「つまり、私のヘアピンの神様ってこと?」

「……そうなるな」

「私、会いに行くよ」


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