王子がお家に住み着いた!
今まで添い寝だけだったのに突然キスされているのは、私の想いを知って利用する為···?
それなら辻褄が合う。そう考え一気に頭が冷えた。

“それでもいいじゃない。私は好きな人と一緒になれるんだから。例え相手から想われていなくても···”


「エメ、何考えてるの?」

ぶに、と頬を潰されルイス殿下に覗き込まれる。

「どーせ変なこと考えてるでしょ」

そのままぐにぐにと頬を引っ張られた。
その行動が、まるで幼かったあの頃を彷彿とさせて思わず吹き出す。

「笑った」

そんな私を見てふわりと微笑んだルイス殿下は、ただただ真っ直ぐだったあの頃のままのようで···

そんな雰囲気に釣られたのだろうか。
ぽろりと本音がこぼれ落ちた。

「私と結婚すれば、殿下の地位は確固たるものになるでしょう。その為に今、このような状況になっているのもわかっております。それでもお飾りの妻にはなりたく···ない···っ」

本音と共に涙が溢れる私を見ていた殿下は、はぁ、と深いため息を吐いて今度は私の頬を指先でグリグリ押しだした。

「い、いひゃ、いひゃいえす、えんか···っ」
「バカバカバカ、エメは本当にバカすぎる」

バカを連呼され反射的に言い返そうと口を開くと、軽くちゅ、と唇を塞がれ思わず言葉を飲み込んだ。

「あのね、政治的に欲しいならもっと昔に大々的に婚約発表するってば。こんなこそこそ、それも今更既成事実作ろうとしてるとでも思ってるの?」
「そ、れは···」

言われてみれば、確かにその通りだ。
さっさと発表すれば、もっと早い段階で彼は王太子になっていた。

「だったら、なんで···」
「王太子妃は、それなりに危険な立場だよ。ベネット派からも狙われるし、これ以上ライス公爵家が力を付ける事をよく思わない他の家門からも狙われる」

話ながらルイス殿下はごろんと私の隣に寝転ぶ。

「だから、私が成人するのを待ってたんだ。成人すれば自分の権限で騎士団を作れるし動かせる。公務も積極的にこなして人脈も作った。全部エメを守る為だよ」
「わ、たくしを···?」
「そう。変な男が付かないように目を光らせつつこの日をずっと待ってたんだ」
「!私に婚約申込みがなかったのは殿下の仕業だったんですか!?」
「まず公爵がチェックして、義兄さん達がチェックして、その後私がチェックしてたね」
「それはそれは····」

私の手元に届かないはずだ、と思わず乾いた笑いが喉に張り付く。

ーーーでも、だったら。
本当に私を守る為だったとしたら···

「ルイス殿下は、その、もしかして私の事を···」
「高貴な血筋に麗しいこの見た目···天使だ神の遣いだと言われていた私を“欲しい”と言ったのは君だよ、エメラルド?」
「そ、そこまで褒めてはおりませんがっ!?」
「あははっ!でも、エメは私が王子だったから欲しかった訳じゃないでしょ?」
「あの時は····その、まだ存じ上げなくて···」

思わず口ごもる私をなんだかおかしそうに眺めるルイス殿下はとても穏やかに微笑んでいて。

「あんなに真っ直ぐ、損得なく私自身を“選ばれた”らさ、それも14年たった今も変わらずこんなに想われて」
「そ、れは···っ!」
「そんなの、うっかり愛おしくて仕方なくなっちゃうと思わない?」
「·····ッッ」

じわじわと顔に熱が集まるのを感じて慌てて王子とは反対の方にごろんと体を向ける。
そんな私を彼はそっと後ろから抱き締めて···

「ここは仮面舞踏会の会場。身分なんか忘れてただ大好きな君が欲しいんだけど、いいかな?」
「だ、ダメと言ったらどうするんですか?」
「君が本当に拒絶を口にするのなら」

ゆっくりと肩を引き至近距離で向かい合う。

「こうやって塞ごうか」
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