王子がお家に住み着いた!
もちろん彼は自称お人形。
添い寝以上の関係はなく、私達は婚約関係でもなんでもない。

ただただ王子が子供時代の私の我が儘を了承し、お人形だからと私の部屋に住み着いて毎日添い寝するだけだ。



「私って、結構いい物件だと思うんだけどなぁ···」
「エメってば、どうしたの?」

今日は王子が公務に行くとの事だったので、私は友人のサン伯爵家のリリーとお茶会という名の愚痴会だ。

「唯一の公女なのに不必要な浪費もしてないし。なのに誰からも婚約申込み来ないのよね」
なにしろ5歳の時にお人形を欲しがったせいでいまだにこんな意味不明な事になっているのだ、さすがに懲りるというものだろう。


はぁ、と大きなため息が漏れる。
そんな私とは違いリリーはと言うと、驚くでもなくしれっとしていた。

「お兄様方もシスコンだからそこで止めてるんじゃない?公爵様が止めてる可能性もあるけど···」
「あり得るぅ···」
「でも、エメに結婚願望があったなんてねぇ~」
「結婚願望って訳ではないわよ、これでも一応貴族の娘だし、いつか必要な相手に嫁ぐ覚悟はしてるわ」

だとしても、誰からも何のお誘いが来ないというのはちょっと唯一の公女としてのプライドが傷つくというもので。

「ふぅん···だったら、仮面舞踏会でも行ってみる?」
「え?」

思わずきょとんとする私に、リリーは内緒話をするかのようにズイッと顔を近付けた。

「エメは、つまり恋がしてみたいって事でしょう?」
「こ、恋っ!?」
「そう、恋!誰かにきゅんきゅん~っとして、思いっきり甘やかされたいって事!」
「えぇ~、そんな、事は···」

ない、と思うんだけど···。
そう思いつつ、楽しそうなリリーの言葉に耳を傾ける。

「誰かわからない相手とちょっぴり危険な夜とか素敵じゃない?」
「え、えぇ!?夜!?」

舞踏会は仮面があろうとなかろうとこの国では基本夜に開催される···が、もちろんリリーの言っている夜はそういう意味ではなくて。

“毎日の添い寝とは違って男女の仲···って事、よね!?”
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