王子がお家に住み着いた!
リリーから誘われた仮面舞踏会の日はあっという間に来た。
別に悪いことをしている訳ではないのだが、流石に仮面舞踏会に行く、なんて言うのは少し気恥ずかしく感じて皆には「ただの舞踏会」と話してあった。

「本日もとてもお美しいです、お嬢様」
「ありがとう!流石の腕前ね」

メイドの手で着飾って貰い、少し浮かれた気持ちで鏡の中の自分と目を合わせる。
リリーが迎えに来てくたと侍従が伝えに来てくれたので、階下に降りる前にこっそりと私室に向かった。

「今日も綺麗だね、エメ。でもどうしたの?もしかして見せに来てくれたのかな?」
「ち、違いますルイス殿下、私はその···忘れ物を取りに寄っただけですわ」
「何を忘れたの?」

きょとんとしたルイス王子の方に体を向け、ドレスのスカートでサイドテーブルを隠しつつこっそり“忘れ物”である“仮面”を取る。
····つもりだったのだが。

「····?·····!?!?」
こそこそと引き出しを探るが一向に見つかる気配がない。

“確かにここに入れたのに···!”

焦りから思わず引き出しを確認しようと振り向こうとした時だった。

「探してるのは、コレかなぁ?」

くすりと笑いながら見せられたのは紛れもなく私が用意した仮面で。

「あ···っ!?」
「舞踏会、確かに嘘じゃないもんね、頭に“仮面”の二文字が付くみたいだけど」
「····ぐぅぬ」

こんな風にバレるなら、いっそ先に···いや、仮面をリリーに用意して貰えば良かった···!

後悔してももう遅い。
そしてこうなったからには仕方ない。

「····仮面舞踏会だと伝えていなかったのは申し訳ありませんでした。しかし仮面舞踏会に行く事自体は何も悪いことではありません」
「まぁ、確かにそうだね。でも、全員ではないにしろ“そういう目的”で利用している者も少なくないよ?」
「私ももう成人している立派な大人です、それに婚約者もおりませんので何も問題にはならないかと」

ま、まぁそんな関係になるつもり全くないけども!ただの気晴らしだし!
でもこれくらい言えば、いくら殿下といえど言い返せないはず···
それに少しくらい嫉妬してくれたら···

そう思いチラリと視線を向けると、相変わらずいつもの微笑みのままだった。
その変わらない表情にツキンと小さく胸が痛む。

「じゃあ、エメはそうなってもいいって思ってるんだ?」
「思ってる、とまでは言いませんが···」
「わかった。はい、これは返すけど、十分気をつけてね?変な男についていかないように」

あっさりと返された仮面が、なんだか鉛のようにずっしり手に沈む。
なんだか重たくなった心を引きずって私室を出ようとした時だった。
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