王子がお家に住み着いた!
「ん、んぅ·····」

ぼんやりする頭を抱えつつ上半身を起こしてハッとする。
ドレスを着ていない。
慌てて顔を触ると仮面もしていなかった。

「え、あ····な、なんで···あれ?」
「お目覚めですか?」

混乱している私に気付き声をかけてくれたのは、倒れそうになった時に手を差し伸べてくれた黒髪の男性···
仮面の装飾や服からそれなりにしっかりとした高位貴族だろうとわかるが、それどころではない。

「こ、ここは!?私のドレスは!?」
「ここは会場の休憩室ですよ。鍵もかかっておりますのでご安心ください」

しれっと逆に安心できない情報を与えられてパニックになる。

「な、なんで、私、もしかして!?シました!?!?」

仮面が外されているので私が誰かはもうバレているだろうがお上品にしている場合ではない。
率直に大事な事を確認する。

あまりにも明け透けな質問をされたからか、男性はぽかんとしたようだったがそんなこと構っている場合ではない。

「ドレス!私のドレスはどこですか!?そしてヤッたの!?ヤッてないの!?あと今何時!?私今日中に帰らなくちゃいけないんですけど!!」

怒鳴るように再度質問を投げると、固まっていた男性が急に大笑いし始めた。

「あはは!エメラルド嬢は面白いですね。質問に答える前に、何故今日中に拘るのかお伺いしても?」
「はぁ!?貴方には関係ありません!」
「答えてくださらないのなら私も答えませんが?」
「なっ!!」

その卑怯な物言いに苛立ちながらも渋々答える。

「帰ると約束したからですわ」
「それは恋人と?」

恋人、と言われ胸が苦しくなる。

「·····違います。でも、私の····想いを寄せる相手ですわ」

見ず知らずの人だからだろうか。
適当に父とでも嘘を言えばいいのに何故か正直に答えてしまい、しまったと思った。
こちらの身分がバレている以上、今の回答を悪意をもって現在の状況と併せて噂にされたら···!

そう危惧したが、彼は「そうですか」と一言返しただけだった。


「わ、私は答えましたわ」
「····ドレスは私が脱がせ、そこのソファに掛けてあります。脱がせた理由はコルセットを外すため。私が脱がせなければ今頃そのドレスは消化しきれなかった食べ物で····ね?」

そう言われ体内を右往左往していたものがすっかり楽になっている事に気付いた。
コルセットを外してくれたおかげでしっかり飲み込めたのだろう。
そして脱がした理由がソレだったのならば、私はまだ純潔のままだ。

色んな意味でホッとしたのだが。

「あと、時刻ですが日付が変わるまであと5分ほどですね」
「ご、5分!?」

その答えに一気に青ざめた。
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