宛先不明の伝書鳩
鳩の頭を撫でると気持ちよさそうに目を瞑る。
「ねえ、鳩さん。あなたのご主人はだあれ?」
鳩は答えず、撫でている手に寄りかかっている。それはそうなのだが、やはり鳩の主人が気の毒だ。伝えたい相手に伝わっていないなんて。
「鳩さん、貴方のご主人様に会いたいのだけれど」
鳩はぴくり、と顔をあげた。鳩のまん丸で黒くて何を考えているかわからない瞳がこちらを見上げていた。リリーはいつかの時の様にメモにさらさらと用件を書いてくくりつけた。
鳩はこころなしか緊張した面持ちである。
「さくらんぼを食べたら、ご主人様に届けてね」
鳩のわりに妙に神妙な顔をして、羽ばたいていった。
その様子をリリーは見つめた。