宛先不明の伝書鳩
それからしばらく、今までは二日に一回来ていた鳩が来なくなった。

リリーは落ち込んだ。愛やら感謝やら囁くわりに、届ける相手を間違えても無視して今までは送ってくるのだ。

それともこの伝書鳩はちょっと抜けている子なのか。

だからこそ鳩にもしかしたらなにかあったのかもしれない。

それとも、ご主人がようやく気づいて送り先を変更したのかもしれない。
唐突に始まって、突然終わったこのやり取りもホッとする半面寂しさも生まれた。


気づいたのなら良かったと思うべきなのはわかっているが、色づきかけた初恋が終わってしまうことに胸がきしんだ。


リリーは店番をしながら依頼されたハンカチの刺繍を行っていた。今は隣国との国境で小さな小競り合いが続いている。そのため、そこに行かされる兵士のお守りとしてハンカチに言葉を添えた。

実はリリーの兄と、ビンスの兄もその戦に行っていた。リリーの兄は血の気が多く、いささか粗野の兄であるがいつ死んでもおかしくない。そのため、ハンカチに『はよ帰ってきて店手伝って』と書いた。心底兄は嫌そうにハンカチを見ていたが、その実、照れくさいのだと知っている。
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