アオハル・スノーガール
理解者を増やして
言われの無い誹謗中傷に苦しむのが嫌で転校までしたというのに、どうしてまた、同じことを繰り返しているのだろう。
文化祭が間近に迫っていたのは、不幸中の幸い。みんな準備に忙しいせいか、噂は思ったよりも広まっていなかった。
だけどやっぱり、気にせずにはいられない。
文化祭も、もう明日。本当なら楽しく準備をしているはずだったのに、とてもそんな気分にはなれない。
けどだからといってサボるわけにもいかずに、ネットの噂を知ってから一夜開けた今日、私達は朝から、郷土研の部室に集まっていた。
「……なるほどね。千冬ちゃん、元気が無いと思っていたら、こんな事になっていたのか」
昨日の里紅ちゃんや楓花ちゃんと同じように、岡留くんからスマホを見せてもらいながら、淡々とした口調で語っているのは白塚先輩。
話すかどうか少し迷ったけど、白塚先輩なら信用できるし。少しでも理解してくれる人を作っておいた方が良いと思って打ち明けたわけだけど。
先輩は椅子に腰掛けながら、しばらく無言でじっとスマホを眺めていたけど、やがてスッと立ち上がり。
ガラリと窓を開けると、スマホを外に放り投げるべく振りかぶった……。
「待て、それは俺のスマホだ。あと、投げ捨てたってどうにもならないからな」
間一髪、岡留くんが慌てて止めた。
危なかった。私のせいでスマホがダメになったら、目も当てられないもの。
「ああ、すまない。あまりにも腹が立ったのでつい」
「あの、そんなに心配してもらわなくてもいいですよ。私は平気ですから」
パタパタと手を振りながら、必死で大丈夫アピールをしたけど、本当は平気なんかじゃない。
だけどせっかくの文化祭を前に余計な気を使わせたくないと、頑張って笑顔を作って訴えかける。
すると白塚先輩は岡留くんにスマホを返して、視線を向けてきた。
「こういう時くらい、素直に弱音をはいたってバチは当たらないよ。前に言っていた学校を辞めた理由って、あの書き込みの事もあったんだね。あんな風に有ること無いこと書かれちゃ、苦しいよね」
「……あの、先輩は気にならないんですか? 書き込みのどこまでが本当か」
「ん、そうだねえ。雪女って部分は、興味があるけど……」
熱を持った目で見つめられて、ドキッとする。
そうだよね。雪女だなんて書き込みを見たら、白塚先輩が興味を持たないはずがないよね。
だけどビクビクしていると、先輩はそっと頭を撫でてきた。
「けど今は、そんな事を言っている場合じゃなさそうだね。大丈夫、少なくとも君が素行の悪い不良だったなんて思っていないから。長い時間とは言えないけど、それなりに一緒にいたんだ。それくらいはわかるよ」
「あ、ありがとうございます」
暖かい言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。
雪女について追及されなかったのも良かったけど、噂を信じてしまったらどうしようという不安も、やっぱりあったから。
けど、先輩は根拠の無い噂に振り回されるような人じゃなかった。
「もしも何かあったら、遠慮なく相談してね。岡留くんも、それでいいね?」
「ああ。杉本達がやってることは、気に入らないしな」
「うむ、頼りにしてるよ」
目を合わせて、信頼のこもった言葉を交わす、白塚先輩と岡留くん。
岡留くんの事を好きだと自覚してせいか、こんな時なのについ、仲が良いななんて思って、ちょっと妬けちゃう。
もちろん、そんな二人に不満があるわけじゃないけど。
私は岡留くんの事が好きだけど、ネットの噂に振り回されずに信じてくれた白塚先輩の事だって好きなんだ。横恋慕して今の関係を、壊したりはしない。
三人が揃っている郷土研が、私の居場所なんだから。
「それとちょっと思ったんだけど。綾瀬の事、木嶋や犬童以外の写真部の人達にも、話してみたらどうだ」
「え、写真部のみんなにもですか?」
大丈夫かなあ。写真部の人達とは一緒に撮影会の準備を進めてきたけど、みんながみんな、里紅ちゃんと楓花ちゃんほど仲が良いわけじゃないから。信じてもらえるかどうか、ちょっと不安だ。
だけど岡留くんも、考え無しに言っているわけじゃなかった。
「文化祭では、たくさんの人が来るだろ。もしかしたら写真部の人達が、偶然どこかで噂を耳にしないとも限らないから、先手を打っておくんだよ。他人から聞くのと、本人から打ち明けられるのとでは、心証が違うからな」
「そうだね。彼らなら、キチンと説明しておけば誤解はされないだろうし。話すならもちろん私達も立ち会うけど、千冬ちゃんはどうしたい?」
なるほど、岡留くんの言うことも、一理ある。
話すのはやっぱり勇気がいるけど、知らないところで耳にされるよりは良いかもしれない。
「それじゃあ、お願いできますか?」
「任せておいて。ならさっそく、写真部と合流しよう。今日は作品の展示があるし、発注していた衣装も届くから、しっかり働いてもらうよ。それこそ、悩んでなんかいられないくらいにね」
「はい!」
不安を振りきるように、大きな声で返事をする。
やっぱりものすごく心配で、心の中は穏やかではいられないけど。せめてこの文化祭だけは何事もなく、楽しく過ごせますように。
文化祭が間近に迫っていたのは、不幸中の幸い。みんな準備に忙しいせいか、噂は思ったよりも広まっていなかった。
だけどやっぱり、気にせずにはいられない。
文化祭も、もう明日。本当なら楽しく準備をしているはずだったのに、とてもそんな気分にはなれない。
けどだからといってサボるわけにもいかずに、ネットの噂を知ってから一夜開けた今日、私達は朝から、郷土研の部室に集まっていた。
「……なるほどね。千冬ちゃん、元気が無いと思っていたら、こんな事になっていたのか」
昨日の里紅ちゃんや楓花ちゃんと同じように、岡留くんからスマホを見せてもらいながら、淡々とした口調で語っているのは白塚先輩。
話すかどうか少し迷ったけど、白塚先輩なら信用できるし。少しでも理解してくれる人を作っておいた方が良いと思って打ち明けたわけだけど。
先輩は椅子に腰掛けながら、しばらく無言でじっとスマホを眺めていたけど、やがてスッと立ち上がり。
ガラリと窓を開けると、スマホを外に放り投げるべく振りかぶった……。
「待て、それは俺のスマホだ。あと、投げ捨てたってどうにもならないからな」
間一髪、岡留くんが慌てて止めた。
危なかった。私のせいでスマホがダメになったら、目も当てられないもの。
「ああ、すまない。あまりにも腹が立ったのでつい」
「あの、そんなに心配してもらわなくてもいいですよ。私は平気ですから」
パタパタと手を振りながら、必死で大丈夫アピールをしたけど、本当は平気なんかじゃない。
だけどせっかくの文化祭を前に余計な気を使わせたくないと、頑張って笑顔を作って訴えかける。
すると白塚先輩は岡留くんにスマホを返して、視線を向けてきた。
「こういう時くらい、素直に弱音をはいたってバチは当たらないよ。前に言っていた学校を辞めた理由って、あの書き込みの事もあったんだね。あんな風に有ること無いこと書かれちゃ、苦しいよね」
「……あの、先輩は気にならないんですか? 書き込みのどこまでが本当か」
「ん、そうだねえ。雪女って部分は、興味があるけど……」
熱を持った目で見つめられて、ドキッとする。
そうだよね。雪女だなんて書き込みを見たら、白塚先輩が興味を持たないはずがないよね。
だけどビクビクしていると、先輩はそっと頭を撫でてきた。
「けど今は、そんな事を言っている場合じゃなさそうだね。大丈夫、少なくとも君が素行の悪い不良だったなんて思っていないから。長い時間とは言えないけど、それなりに一緒にいたんだ。それくらいはわかるよ」
「あ、ありがとうございます」
暖かい言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。
雪女について追及されなかったのも良かったけど、噂を信じてしまったらどうしようという不安も、やっぱりあったから。
けど、先輩は根拠の無い噂に振り回されるような人じゃなかった。
「もしも何かあったら、遠慮なく相談してね。岡留くんも、それでいいね?」
「ああ。杉本達がやってることは、気に入らないしな」
「うむ、頼りにしてるよ」
目を合わせて、信頼のこもった言葉を交わす、白塚先輩と岡留くん。
岡留くんの事を好きだと自覚してせいか、こんな時なのについ、仲が良いななんて思って、ちょっと妬けちゃう。
もちろん、そんな二人に不満があるわけじゃないけど。
私は岡留くんの事が好きだけど、ネットの噂に振り回されずに信じてくれた白塚先輩の事だって好きなんだ。横恋慕して今の関係を、壊したりはしない。
三人が揃っている郷土研が、私の居場所なんだから。
「それとちょっと思ったんだけど。綾瀬の事、木嶋や犬童以外の写真部の人達にも、話してみたらどうだ」
「え、写真部のみんなにもですか?」
大丈夫かなあ。写真部の人達とは一緒に撮影会の準備を進めてきたけど、みんながみんな、里紅ちゃんと楓花ちゃんほど仲が良いわけじゃないから。信じてもらえるかどうか、ちょっと不安だ。
だけど岡留くんも、考え無しに言っているわけじゃなかった。
「文化祭では、たくさんの人が来るだろ。もしかしたら写真部の人達が、偶然どこかで噂を耳にしないとも限らないから、先手を打っておくんだよ。他人から聞くのと、本人から打ち明けられるのとでは、心証が違うからな」
「そうだね。彼らなら、キチンと説明しておけば誤解はされないだろうし。話すならもちろん私達も立ち会うけど、千冬ちゃんはどうしたい?」
なるほど、岡留くんの言うことも、一理ある。
話すのはやっぱり勇気がいるけど、知らないところで耳にされるよりは良いかもしれない。
「それじゃあ、お願いできますか?」
「任せておいて。ならさっそく、写真部と合流しよう。今日は作品の展示があるし、発注していた衣装も届くから、しっかり働いてもらうよ。それこそ、悩んでなんかいられないくらいにね」
「はい!」
不安を振りきるように、大きな声で返事をする。
やっぱりものすごく心配で、心の中は穏やかではいられないけど。せめてこの文化祭だけは何事もなく、楽しく過ごせますように。