アオハル・スノーガール
文化祭の出し物
田良木高校に転校してきてから、もう半月。
休み時間や昼休みは、里紅ちゃんや楓花ちゃんと一緒に過ごして。放課後は郷土研で、文化祭に向けての準備を進める毎日。
まあ部活の方は時々、資料をまとめるのそっちのけで、妖談義が始まっちゃうこともあるんだけどね。
「千冬ちゃんも入ったことだし、いつか皆で合宿にでも行ってみたいね。化け猫屋敷の伝説がある、熊本の根子岳なんてどうだろう?」
「合宿なんていつ行くんですか。冬の山は危ないですし、来年の夏には部長は進路で、それどころじゃないでしょう」
「むう、それは確かに。なら行くとしたら、春休みになるかな。根子岳以外にも、どこか行きたい場所はあるかい?」
「……俺は、だいだらぼっちの足跡が見たい」
こんな感じで、合宿に行くとしたらどこが良いか話した事もあった。私もどこが良いかって聞かれたけど、北海道のコロポックルに会いたいって答えておいた。
北海道に伝わる、小人のコロポックル。可愛いから一度会ってみたいって思ってたんだよね。
結局合宿には行けたら行こうってことで終わったけど。もしものお話をするのは楽しくて。当初思っていたよりもずっと快適な学校生活を送れている。
ただ今日は、いつもとちょっとやることが違う。
放課後になって訪れたのは、普段集まっている郷土研の部室じゃなくて、扉に『写真部』と書かれた部室。
私だけじゃなくて、白塚先輩と岡留くんも来ていて。そして部屋の中には、里紅ちゃんや楓花ちゃんの姿もあった。
「やっほー千冬、今日はよろしくねー」
「よろしく里紅ちゃん、楓花ちゃん。それにしてもビックリしたよ。まさか文化祭の展示を、写真部と合同でやるだなんて」
「どうせ私たちじゃ大したものなんて用意できないから、弱小部は弱小部でまとめちゃえって。学校側も変なこと考えるよねえ」
犬童さんが苦笑するのも無理はない。
郷土研と写真部。全然関係無い二つの部活だけど、そこにはある共通点がある。それは二つとも部員が少なければ、集客力のある大きな展示なんてできないであろう、弱小部だと言うこと。
失礼な事を言っちゃってごめんなさい。けどこれ、私が言ったわけじゃないの。
学校から直々に、そう言われたんだからー!
「方や壁新聞、方や写真。どうせ二つとも発表物を貼るだけなんだから、展示場所や準備をまとめてしまった方が、管理しやすくなる。理にはかなっているね」
「綾瀬は驚いたかもしれないけど、これがうちのやり方なんだ」
白塚先輩と岡留くんが解説してくれる。
要するに、文化祭の展示は弱小部同士協力してやれって、学校から言われているんだって。
理にかなってるというか、ずいぶんと乱暴なまとめ方な気もするけど。
こうして集まっているのは、そんな文化祭の事について話し合うため。
私達郷土研と写真部の面々はそれぞれ向き合うような形で、長机の向こう側とこちら側に座っている。
私達郷土研は3人しかいないけど、見ると写真部も部員は6人。合わせても9人かあ。残念だけどこの人数じゃ、弱小って言われても仕方がないかも。
「それじゃ、そろそろ始めていこうか。と言っても、だいたいの打ち合わせは一学期の間に終わってるか。白塚さん、何か付け加える事はある?」
メガネをかけた男子生徒、写真部の部長さんが尋ねると、先輩はそれに答える。
「うーん、特に無いかな。いや、待てよ。写真部の皆には、ちゃんと紹介しておいた方がいいか。木嶋さんと犬童さんは知ってるよね。二学期から新しく入った、新入部員がいるんだ。千冬ちゃん、挨拶を良いかな?」
「あ、綾瀬千冬です。途中からの参加になりますけど、どうかよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると、写真部の人達は口々に、「あれが東京からの転校生か」なんて言ってくる。
すると一人の先輩の男子生徒が、机に身を乗り出して聞いてきた。
「なあ、アンタが前いた学校の文化祭って、何やってたんだ? 何か面白い出し物でも、してなかったか?」
「ええと、ごめんなさい、よく知らないです。前の学校でも、文化祭はまだでしたから」
「何だ、そうなのか。残念、せっかく面白い話が聞けるかもって思ったんだけどな」
「うう、ごめんなさい」
申し訳なくて、頭を下げる。ごめんなさい、もっと役に立てれば良かったんだけど。
「去年まではどうしてたんですか? 例えば妖が好きなら、お化け屋敷をやるとか」
「それが、結局いいアイディアが浮かばず、何も出来なかったらしい。お化け屋敷はいちおう企画に上ったけど、少人数だと準備もろくにできないから、却下されたみたいだ」
にこりともせずに答えてくれる岡留くん。
ああ、確かに。去年何人いたかは知らないけど、確かに現在の人数じゃちょっと厳しいかも。
「発案者である部長は、最後まで学校と掛け合ってたらしいけど。あの人昔から、諦めが悪いからなあ」
「先輩らしいですね。けど昔からって、岡留くんってそんな前から、白塚先輩の事を知っているんですか? もしかして、幼馴染とか?」
「……まあ、似たようなもの」
視線を逸らしながら答える岡留くん。へえ、幼馴染だったんだ。
なんとなく二人の距離が近いなあって思っていたけど、そう言う事情があったのか。
それはそうと、今は文化祭の話か。と言っても、本当にアイディアなんてないし……ん、まてよ。
(ああ! そういえば私、去年文化祭に行ってたや!)
そうだ、どうして忘れてたんだろう。
頭に浮かんだのは、去年の秋の事。さっきも言った通り、今年の文化祭はまだだったけど、去年受験勉強の息抜きに、高校の文化祭に行っていたのを思い出した。
(あの時は、どんな出し物があったっけ? 確か、写真部も何かやっていたような……)
お好み焼きやクレープ屋といったお店が並んで、映画上映をやっている教室もあったっけ。そんな校内を歩いていると、一人の先輩から、写真部のイベントに来ないかって、声をかけられたんだっけ。
そこでは、今私達が企画しているのと同じ、写真の展示もやっていたけれど。それとは別にもうひとつ、出し物をしていた。それは。
「あ、思い出しました!」
「ん、綾瀬さん、何かあるのか?」
「はい。去年行った高校の文化祭で、写真部の催し物を見たんですけど。そこでは来場者がいろんなコスプレをしてそれを写真に撮るっていう、コスプレ撮影会をやっていたんです」
「コスプレ?」
先輩はピンと来ていないようで、キョトンとした顔をされる。
「定番のメイドや、時代劇に出てくるような着物に着替えて、写真を撮るんです。あと、コスプレした写真部の人達と一緒に、撮影してもらえるサービスもありました」
たぶん、意図的に格好良い男子や、可愛い女の子を選んでいたのだろう。コスプレをした人達との撮影は盛り上がっていて、撮影希望者が列を作っていた。
「同じ写真部なのに、私達とはえらい違いね。けど、よくそんな衣装用意できたね。自分達で作ったのかな?」
疑問に思う楓花ちゃんだったけど、私は首を横に振る。
「それは多分、レンタルしたんじゃないでしょうか? イベント用に衣装を貸し出す業者があるって、聞いた事があります」
「コスプレかあ。ここいらじゃそんなハイカラな事なんて目にする機会ないけど、やれば案外ウケるんじゃないの? 部長、アタシ達もできませんか、コスプレ撮影」
里紅ちゃんの言葉に、部長さんは「うーん」と考え込む。
「先生に相談してみないと何とも言えないけど、俺達はともかく郷土研はいいの? コスプレ撮影だと、郷土研っぽさが無くなるけど」
あ、そうだった。つい記憶にあった写真部の話をしたけど、郷土研らしくはないよね。
だけど白塚先輩の目には、火が灯っていた。
「いや、それならコスプレの内容を、うちに合わせてはくれないか。昔の人の衣装や、伝承にある妖のコスプレをさせれば、郷土研らしさも、出す事ができる。妖の衣装だって、きっとあるだろう」
なるほど、その手がありましたか。さすが先輩、こう言う時でも、妖愛を忘れませんね。
「去年のお化け屋敷は準備に時間がかかるから却下されたけど、逆に言えばそれさえなんとかできれば、許可は降りると言うこと。レンタルなら、時間もかからないよね」
「なら、出来ないことはないかもな。どうする、コスプレ撮影、本当にやってみる?」
部長さんの言葉に、全員が一斉に頷く。みんなだんだん乗り気になってきていて、興味津々といった様子。
だけどそんな中私は、内心少し焦っていた。思い付きで言っただけなのに、何だか大事になってきて。不安にかられた私は、再度岡留くんに聞いた。
「これで良かったんでしょうか? よく考えずに言っただけだったんですけど」
「良いんじゃないか。何だかんだで皆、せっかくだから何かできないかって思ってたところだし。むしろ感謝してるって」
「あ、ありがとうございます」
ふふ、感謝なんて言われるとちょっと照れ臭いけど、悪い気はしない。
励ましてくれた岡留くんにお礼を言うと、彼は表情を変えないまま、「礼を言うような事じゃねーよ」って、言ってくれた。
休み時間や昼休みは、里紅ちゃんや楓花ちゃんと一緒に過ごして。放課後は郷土研で、文化祭に向けての準備を進める毎日。
まあ部活の方は時々、資料をまとめるのそっちのけで、妖談義が始まっちゃうこともあるんだけどね。
「千冬ちゃんも入ったことだし、いつか皆で合宿にでも行ってみたいね。化け猫屋敷の伝説がある、熊本の根子岳なんてどうだろう?」
「合宿なんていつ行くんですか。冬の山は危ないですし、来年の夏には部長は進路で、それどころじゃないでしょう」
「むう、それは確かに。なら行くとしたら、春休みになるかな。根子岳以外にも、どこか行きたい場所はあるかい?」
「……俺は、だいだらぼっちの足跡が見たい」
こんな感じで、合宿に行くとしたらどこが良いか話した事もあった。私もどこが良いかって聞かれたけど、北海道のコロポックルに会いたいって答えておいた。
北海道に伝わる、小人のコロポックル。可愛いから一度会ってみたいって思ってたんだよね。
結局合宿には行けたら行こうってことで終わったけど。もしものお話をするのは楽しくて。当初思っていたよりもずっと快適な学校生活を送れている。
ただ今日は、いつもとちょっとやることが違う。
放課後になって訪れたのは、普段集まっている郷土研の部室じゃなくて、扉に『写真部』と書かれた部室。
私だけじゃなくて、白塚先輩と岡留くんも来ていて。そして部屋の中には、里紅ちゃんや楓花ちゃんの姿もあった。
「やっほー千冬、今日はよろしくねー」
「よろしく里紅ちゃん、楓花ちゃん。それにしてもビックリしたよ。まさか文化祭の展示を、写真部と合同でやるだなんて」
「どうせ私たちじゃ大したものなんて用意できないから、弱小部は弱小部でまとめちゃえって。学校側も変なこと考えるよねえ」
犬童さんが苦笑するのも無理はない。
郷土研と写真部。全然関係無い二つの部活だけど、そこにはある共通点がある。それは二つとも部員が少なければ、集客力のある大きな展示なんてできないであろう、弱小部だと言うこと。
失礼な事を言っちゃってごめんなさい。けどこれ、私が言ったわけじゃないの。
学校から直々に、そう言われたんだからー!
「方や壁新聞、方や写真。どうせ二つとも発表物を貼るだけなんだから、展示場所や準備をまとめてしまった方が、管理しやすくなる。理にはかなっているね」
「綾瀬は驚いたかもしれないけど、これがうちのやり方なんだ」
白塚先輩と岡留くんが解説してくれる。
要するに、文化祭の展示は弱小部同士協力してやれって、学校から言われているんだって。
理にかなってるというか、ずいぶんと乱暴なまとめ方な気もするけど。
こうして集まっているのは、そんな文化祭の事について話し合うため。
私達郷土研と写真部の面々はそれぞれ向き合うような形で、長机の向こう側とこちら側に座っている。
私達郷土研は3人しかいないけど、見ると写真部も部員は6人。合わせても9人かあ。残念だけどこの人数じゃ、弱小って言われても仕方がないかも。
「それじゃ、そろそろ始めていこうか。と言っても、だいたいの打ち合わせは一学期の間に終わってるか。白塚さん、何か付け加える事はある?」
メガネをかけた男子生徒、写真部の部長さんが尋ねると、先輩はそれに答える。
「うーん、特に無いかな。いや、待てよ。写真部の皆には、ちゃんと紹介しておいた方がいいか。木嶋さんと犬童さんは知ってるよね。二学期から新しく入った、新入部員がいるんだ。千冬ちゃん、挨拶を良いかな?」
「あ、綾瀬千冬です。途中からの参加になりますけど、どうかよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると、写真部の人達は口々に、「あれが東京からの転校生か」なんて言ってくる。
すると一人の先輩の男子生徒が、机に身を乗り出して聞いてきた。
「なあ、アンタが前いた学校の文化祭って、何やってたんだ? 何か面白い出し物でも、してなかったか?」
「ええと、ごめんなさい、よく知らないです。前の学校でも、文化祭はまだでしたから」
「何だ、そうなのか。残念、せっかく面白い話が聞けるかもって思ったんだけどな」
「うう、ごめんなさい」
申し訳なくて、頭を下げる。ごめんなさい、もっと役に立てれば良かったんだけど。
「去年まではどうしてたんですか? 例えば妖が好きなら、お化け屋敷をやるとか」
「それが、結局いいアイディアが浮かばず、何も出来なかったらしい。お化け屋敷はいちおう企画に上ったけど、少人数だと準備もろくにできないから、却下されたみたいだ」
にこりともせずに答えてくれる岡留くん。
ああ、確かに。去年何人いたかは知らないけど、確かに現在の人数じゃちょっと厳しいかも。
「発案者である部長は、最後まで学校と掛け合ってたらしいけど。あの人昔から、諦めが悪いからなあ」
「先輩らしいですね。けど昔からって、岡留くんってそんな前から、白塚先輩の事を知っているんですか? もしかして、幼馴染とか?」
「……まあ、似たようなもの」
視線を逸らしながら答える岡留くん。へえ、幼馴染だったんだ。
なんとなく二人の距離が近いなあって思っていたけど、そう言う事情があったのか。
それはそうと、今は文化祭の話か。と言っても、本当にアイディアなんてないし……ん、まてよ。
(ああ! そういえば私、去年文化祭に行ってたや!)
そうだ、どうして忘れてたんだろう。
頭に浮かんだのは、去年の秋の事。さっきも言った通り、今年の文化祭はまだだったけど、去年受験勉強の息抜きに、高校の文化祭に行っていたのを思い出した。
(あの時は、どんな出し物があったっけ? 確か、写真部も何かやっていたような……)
お好み焼きやクレープ屋といったお店が並んで、映画上映をやっている教室もあったっけ。そんな校内を歩いていると、一人の先輩から、写真部のイベントに来ないかって、声をかけられたんだっけ。
そこでは、今私達が企画しているのと同じ、写真の展示もやっていたけれど。それとは別にもうひとつ、出し物をしていた。それは。
「あ、思い出しました!」
「ん、綾瀬さん、何かあるのか?」
「はい。去年行った高校の文化祭で、写真部の催し物を見たんですけど。そこでは来場者がいろんなコスプレをしてそれを写真に撮るっていう、コスプレ撮影会をやっていたんです」
「コスプレ?」
先輩はピンと来ていないようで、キョトンとした顔をされる。
「定番のメイドや、時代劇に出てくるような着物に着替えて、写真を撮るんです。あと、コスプレした写真部の人達と一緒に、撮影してもらえるサービスもありました」
たぶん、意図的に格好良い男子や、可愛い女の子を選んでいたのだろう。コスプレをした人達との撮影は盛り上がっていて、撮影希望者が列を作っていた。
「同じ写真部なのに、私達とはえらい違いね。けど、よくそんな衣装用意できたね。自分達で作ったのかな?」
疑問に思う楓花ちゃんだったけど、私は首を横に振る。
「それは多分、レンタルしたんじゃないでしょうか? イベント用に衣装を貸し出す業者があるって、聞いた事があります」
「コスプレかあ。ここいらじゃそんなハイカラな事なんて目にする機会ないけど、やれば案外ウケるんじゃないの? 部長、アタシ達もできませんか、コスプレ撮影」
里紅ちゃんの言葉に、部長さんは「うーん」と考え込む。
「先生に相談してみないと何とも言えないけど、俺達はともかく郷土研はいいの? コスプレ撮影だと、郷土研っぽさが無くなるけど」
あ、そうだった。つい記憶にあった写真部の話をしたけど、郷土研らしくはないよね。
だけど白塚先輩の目には、火が灯っていた。
「いや、それならコスプレの内容を、うちに合わせてはくれないか。昔の人の衣装や、伝承にある妖のコスプレをさせれば、郷土研らしさも、出す事ができる。妖の衣装だって、きっとあるだろう」
なるほど、その手がありましたか。さすが先輩、こう言う時でも、妖愛を忘れませんね。
「去年のお化け屋敷は準備に時間がかかるから却下されたけど、逆に言えばそれさえなんとかできれば、許可は降りると言うこと。レンタルなら、時間もかからないよね」
「なら、出来ないことはないかもな。どうする、コスプレ撮影、本当にやってみる?」
部長さんの言葉に、全員が一斉に頷く。みんなだんだん乗り気になってきていて、興味津々といった様子。
だけどそんな中私は、内心少し焦っていた。思い付きで言っただけなのに、何だか大事になってきて。不安にかられた私は、再度岡留くんに聞いた。
「これで良かったんでしょうか? よく考えずに言っただけだったんですけど」
「良いんじゃないか。何だかんだで皆、せっかくだから何かできないかって思ってたところだし。むしろ感謝してるって」
「あ、ありがとうございます」
ふふ、感謝なんて言われるとちょっと照れ臭いけど、悪い気はしない。
励ましてくれた岡留くんにお礼を言うと、彼は表情を変えないまま、「礼を言うような事じゃねーよ」って、言ってくれた。