前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
しかしその後、リーヴェス――クローゼ公爵からミーゼス侯爵家へ手紙と花が届いた。以前ルティアに非礼を働いたことへの謝罪とそのお詫びだった。
『できれば直接お会いして、あなたに謝りたい』
(直接会いたいだなんて……)
一体何を考えているのだろうとルティアはため息をついた。無造作にテーブルに置かれた手紙を、母が断って目を通す。
「まぁ、ルティア。あなた一体いつ公爵とお会いしたの?」
娘の意外な出会いに母は驚きながらも喜びを隠せない様子だった。
「姉さま。誰か素敵な殿方とお会いになったの?」
「姉上に相応しい人?」
「うふふ。ファニー、フリッツ。お姉様はとても素敵な殿方と出会ったのよ」
クローゼ公爵は女性たちから評判がいい。現在二十五歳で、いまだ独身だ。ぜひ我が娘と結婚してほしい……という家は少なくない。
「ね、ルティアも公爵閣下って素敵な方だと思うでしょう?」
「少しお話しただけだからよくわからないわ」
娘のそっけない答えに母は拗ねたように唇を尖らせる。だがすぐにそうだわと目を輝かせた。
「お手紙をいただいたのならば、お返事を書かなくてはいけないわね」
「必要ないでしょう」
手紙の内容を無視して断っても、母は譲らなかった。
「あら、だめよ。どうか気にしないでくださいと、公爵を安心させてあげなくちゃ」
これをきっかけに仲を深めて結婚に至るかもしれない。
母のにこにこ微笑む表情はそう告げており、ルティアは憂鬱な気持ちになる。
「お母様。クローゼ公爵はわたしには不相応な方だわ。一緒になってほしいなど、考えないでください」
いつになく怖い表情と口調で釘を刺す娘に母は驚いたように目を丸くした。ファニーとフリッツも同じだ。
「まぁ、ルティア。不相応だなんて、どうしてそう思うの?」
「何か公爵に気に障ることでも言われたのかい?」
それまで黙って母娘のやり取りを聞いていた父が静かに問いかけてきた。母もようやく手紙に書かれた非礼、という文字に思い至る。
「ルティア。何かひどいことでもされたの?」
先ほどとは打って変わって心配する母に、ルティアはいけないと冷静になり、笑みを浮かべた。
「いいえ。ただ知り合いに似ていたからと、人間違いをされただけです。公爵はとても親切な方でしたわ」
「そう? なら、いんだけれど……」
「ルティア。嫌ならことがあったら、無理せず言っていいんだぞ」
「そうよ。あなたはいつも我慢して、いい子すぎるもの」
前世はこうして親に心配されたことがなかったから、二人の言葉に胸が熱くなる。
「姉さま。わたしも姉さまの味方よ?」
「ファニー、僕の台詞先に言わないで。姉上。僕も力になるから」
「二人とも、ありがとう。お父様、お母様も……。でもわたし、今でも十分幸せなんです」
ルティアの言い方はどこか達観しており、前世で辛い過去を経験してきたからこそ出てきた言葉だった。だがまさか娘に前世の記憶があり、しかも女王であったなど知らないルティアの両親はこのままでは娘が消えてしまうのではないかという不安を抱き、ますます心配を募らせるのだが、本人は気づかないままだった。
『できれば直接お会いして、あなたに謝りたい』
(直接会いたいだなんて……)
一体何を考えているのだろうとルティアはため息をついた。無造作にテーブルに置かれた手紙を、母が断って目を通す。
「まぁ、ルティア。あなた一体いつ公爵とお会いしたの?」
娘の意外な出会いに母は驚きながらも喜びを隠せない様子だった。
「姉さま。誰か素敵な殿方とお会いになったの?」
「姉上に相応しい人?」
「うふふ。ファニー、フリッツ。お姉様はとても素敵な殿方と出会ったのよ」
クローゼ公爵は女性たちから評判がいい。現在二十五歳で、いまだ独身だ。ぜひ我が娘と結婚してほしい……という家は少なくない。
「ね、ルティアも公爵閣下って素敵な方だと思うでしょう?」
「少しお話しただけだからよくわからないわ」
娘のそっけない答えに母は拗ねたように唇を尖らせる。だがすぐにそうだわと目を輝かせた。
「お手紙をいただいたのならば、お返事を書かなくてはいけないわね」
「必要ないでしょう」
手紙の内容を無視して断っても、母は譲らなかった。
「あら、だめよ。どうか気にしないでくださいと、公爵を安心させてあげなくちゃ」
これをきっかけに仲を深めて結婚に至るかもしれない。
母のにこにこ微笑む表情はそう告げており、ルティアは憂鬱な気持ちになる。
「お母様。クローゼ公爵はわたしには不相応な方だわ。一緒になってほしいなど、考えないでください」
いつになく怖い表情と口調で釘を刺す娘に母は驚いたように目を丸くした。ファニーとフリッツも同じだ。
「まぁ、ルティア。不相応だなんて、どうしてそう思うの?」
「何か公爵に気に障ることでも言われたのかい?」
それまで黙って母娘のやり取りを聞いていた父が静かに問いかけてきた。母もようやく手紙に書かれた非礼、という文字に思い至る。
「ルティア。何かひどいことでもされたの?」
先ほどとは打って変わって心配する母に、ルティアはいけないと冷静になり、笑みを浮かべた。
「いいえ。ただ知り合いに似ていたからと、人間違いをされただけです。公爵はとても親切な方でしたわ」
「そう? なら、いんだけれど……」
「ルティア。嫌ならことがあったら、無理せず言っていいんだぞ」
「そうよ。あなたはいつも我慢して、いい子すぎるもの」
前世はこうして親に心配されたことがなかったから、二人の言葉に胸が熱くなる。
「姉さま。わたしも姉さまの味方よ?」
「ファニー、僕の台詞先に言わないで。姉上。僕も力になるから」
「二人とも、ありがとう。お父様、お母様も……。でもわたし、今でも十分幸せなんです」
ルティアの言い方はどこか達観しており、前世で辛い過去を経験してきたからこそ出てきた言葉だった。だがまさか娘に前世の記憶があり、しかも女王であったなど知らないルティアの両親はこのままでは娘が消えてしまうのではないかという不安を抱き、ますます心配を募らせるのだが、本人は気づかないままだった。