前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
8、求婚
その後もリーヴェスからの手紙が届き、ルティアは当たり障りのない言葉で返した。余ったチケットで観劇にも誘われたが、丁重に断った。
いずれは彼も諦めてくれるだろう。そう思っていたが、リーヴェスはなんと直接ルティアのもとへ会いに来た。これにはルティアだけでなく両親もたいそう驚き、初めのうちは訝しんで会わせようとしなかった。
だが公爵の真面目で、真っ直ぐな心根にすぐに警戒を解き、「もう一度会ってみないか?」とルティアに勧めるようになった。
「噂では聞いていたが、とても実直で好感の持てる男性だ」
「あなたと同じで、恵まれない子どものためにいろいろと活動なさっているみたい。意外と話してみたら、気が合うんじゃないかしら」
そんなことをかわるがわる、日に日に口数多く説得された。
「――お姉さま、公爵閣下と結婚するの?」
ファニーを膝の上に乗せて、彼女の髪を三つ編みにしていたルティアは「しないわ」と淡々と否定した。
「でも、お父さまもお母さまもそのつもりみたいよ?」
ませた口調にルティアは苦笑いする。
「姉上がしたくないって言っているんだから、しないんだよ」
ルティアの足元に寝っ転がって本を読んでいたフリッツが妹の間違いを訂正する。ファニーは鼻で笑った。
「馬鹿ね、フリッツ。貴族の娘の結婚は親が決めるものなのよ」
「昔はね。でも今は違う。恋愛結婚、本人の意思を大事にしている。母上と父上が姉上の意思を無視して結婚を決めるものか。馬鹿はおまえだ、ファニー」
「お姉さまが誰とも結婚しないっていうなら、話は変わってくるわ。馬鹿はやっぱりあなただわ、フリッツ」
「僕は馬鹿じゃない。馬鹿は――」
「あなたたち、そこまでにしなさい」
自分のことで喧嘩し始める弟と妹を止めれば、二人は揃って不満そうな顔をする。
「でも、姉さま。これは大切な問題だわ」
「そうだよ。姉上の幸せが関わっている重大な問題だ」
自分のことのように考えてくれる二人を可愛く思ったが、これはやはりルティアの問題である。
「わたしは閣下と結婚するつもりはないわ」
「じゃあ誰とならいいの?」
ファニーの質問にルティアは笑みを浮かべ、「誰とも結婚するつもりはないわ」と静かに答えた。
姉の言葉に二人は目を真ん丸と見開き、互いに顔を見合わせた。やがておずおずとファニーがルティアの方を見上げる。
「でもお姉さま……きっとそれは、お父さまたちがお許しにならないわ」
「閣下もたぶん、懲りずに訪ねてくると思うな」
起き上がってフリッツも神妙な口調で同意する。くるりと振り返ったファニーはルティアの首に手を回し、ぎゅっと小さな身体で抱き着いてきた。
「ねぇ、お姉さま。わたしはお姉さまが選ぶ道なら、何だって応援する。でも……姉さまが遠いところへ行ってしまうのは、悲しいわ」
「僕も……できれば姉上にはすぐに会える環境にいてほしい」
「ファニー、フリッツ……」
大丈夫、安心して。ずっとあなたたちのそばにいるわ、とは言えなかった。
いずれは彼も諦めてくれるだろう。そう思っていたが、リーヴェスはなんと直接ルティアのもとへ会いに来た。これにはルティアだけでなく両親もたいそう驚き、初めのうちは訝しんで会わせようとしなかった。
だが公爵の真面目で、真っ直ぐな心根にすぐに警戒を解き、「もう一度会ってみないか?」とルティアに勧めるようになった。
「噂では聞いていたが、とても実直で好感の持てる男性だ」
「あなたと同じで、恵まれない子どものためにいろいろと活動なさっているみたい。意外と話してみたら、気が合うんじゃないかしら」
そんなことをかわるがわる、日に日に口数多く説得された。
「――お姉さま、公爵閣下と結婚するの?」
ファニーを膝の上に乗せて、彼女の髪を三つ編みにしていたルティアは「しないわ」と淡々と否定した。
「でも、お父さまもお母さまもそのつもりみたいよ?」
ませた口調にルティアは苦笑いする。
「姉上がしたくないって言っているんだから、しないんだよ」
ルティアの足元に寝っ転がって本を読んでいたフリッツが妹の間違いを訂正する。ファニーは鼻で笑った。
「馬鹿ね、フリッツ。貴族の娘の結婚は親が決めるものなのよ」
「昔はね。でも今は違う。恋愛結婚、本人の意思を大事にしている。母上と父上が姉上の意思を無視して結婚を決めるものか。馬鹿はおまえだ、ファニー」
「お姉さまが誰とも結婚しないっていうなら、話は変わってくるわ。馬鹿はやっぱりあなただわ、フリッツ」
「僕は馬鹿じゃない。馬鹿は――」
「あなたたち、そこまでにしなさい」
自分のことで喧嘩し始める弟と妹を止めれば、二人は揃って不満そうな顔をする。
「でも、姉さま。これは大切な問題だわ」
「そうだよ。姉上の幸せが関わっている重大な問題だ」
自分のことのように考えてくれる二人を可愛く思ったが、これはやはりルティアの問題である。
「わたしは閣下と結婚するつもりはないわ」
「じゃあ誰とならいいの?」
ファニーの質問にルティアは笑みを浮かべ、「誰とも結婚するつもりはないわ」と静かに答えた。
姉の言葉に二人は目を真ん丸と見開き、互いに顔を見合わせた。やがておずおずとファニーがルティアの方を見上げる。
「でもお姉さま……きっとそれは、お父さまたちがお許しにならないわ」
「閣下もたぶん、懲りずに訪ねてくると思うな」
起き上がってフリッツも神妙な口調で同意する。くるりと振り返ったファニーはルティアの首に手を回し、ぎゅっと小さな身体で抱き着いてきた。
「ねぇ、お姉さま。わたしはお姉さまが選ぶ道なら、何だって応援する。でも……姉さまが遠いところへ行ってしまうのは、悲しいわ」
「僕も……できれば姉上にはすぐに会える環境にいてほしい」
「ファニー、フリッツ……」
大丈夫、安心して。ずっとあなたたちのそばにいるわ、とは言えなかった。