前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ

9、家族の反対

「婚約だけでも、どうかしら」

 結婚の申し出をその場で断って数日後。母が伺うように口火を切った。リーヴェスは諦めず、両親を通して説得しているようだ。最初は娘の意思を尊重して丁寧に断っていた両親も、最初の訪問時と同様、リーヴェスに絆されている。

「公爵閣下は大変よくできたお方だ。結婚したおまえのことも、大切にしてくださるはずだよ」

 父も母と同意見なのか、加勢する。

(もう、ここまでか……)

 ルティアはいつ切り出そうか迷っていたが、今しかないと思った。

「お母様、お父様。わたし、誰とも結婚するつもりはありません」

 両親は口を閉ざしたものの、さほど驚いた表情はしなかった。

 もしかするとファニーからすでに聞いていたのかもしれない。あるいはそれまでの自分の態度でだいたい予想がついていたのか。

「ルティア。結婚しないというならば、どうするつもりだ。ずっと家にいるつもりか?」
「いいえ」
「もしかして働くつもり?」
「いいえ」
「じゃあ――」
「修道院へ入ろうと考えています」

 今度の回答は、二人の度肝を抜いたようだ。さすがに神の世界へ入るとは予想していなかったようだ。

(それもそうよね……)

 前世の世界では、若い女性が修道院で暮らすことは、それほど珍しいことではなかった。

 だが今の世界では違う。聖職者の親族でもない女性が修道院に身を寄せることは、よほどの事情がある者が覚悟を持って入る場所とみなされていた。

「わたし、神への祈りに一生を捧げたいのです」
「まぁ、ルティア……!」

 母が手を口に当てて、ぐらりと身体を傾けさせる。すかさず父が支えたものの、その顔色は母と同じく青白かった。

「ルティア。本気なのかい?」
「はい。……ごめんなさい。反対されると思ってなかなか言い出すことができませんでした」

 修道院へ入るということは、世俗を捨てることを意味している。同時に結婚や出産など、女の幸せも諦め、煌びやかな貴族世界にも別れを告げて、ただひたすら神の世界で己を見つめ合う。当然家族との面会も、制限される。結婚して気軽に実家へ帰ることとはわけが違う。

「お願いルティア。どうか考え直して! 公爵との結婚はしなくていいから!」
「そうだ。結婚しなくていいから、ずっと我が家にいていいから、そんな孤独な道を選ばないでくれ!」

 両親が涙交じりに説得し始め、部屋の外で聞き耳を立てていたと思われるファニーとフリッツも「姉さま!」「姉上!」とルティアに泣いて縋ってきた。

「お姉さまがそんな場所に行ってしまったら、めったに会えなくなってしまうわ!」
「ファニーの言う通りだよ。姉上、そんなところに行かないでっ」

 様子を見守っていた家令とメイドにも、どうかもう一度考え直してほしいと懇願され、ルティアは修道院へ行くことをその場では諦めるしかなかった。そしてリーヴェスとの結婚話も、白紙にされたのだった。

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