前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
 あれから家族はルティアのことをどこか腫れ物にでも触るかのようにおずおずと接してくることが増えた。孤児院へ出かける際も、そのまま帰ってこないのではないかと心配して、従者にそれとなく監視させている。

 今も屋敷の図書室で本を読んでいるだけなのに、室内にはメイドが数人、外には男性使用人が二人もついている。

(失敗したわ……)

 まさかここまで家族に反対され、ショックを与えるとは思っていなかった。

 前世では女王という立場上、振る舞いや行動を常に制限されていたが、それはすべて国のためであった。自分と離れたくなくて、寂しい将来を心配してあれこれと過保護になるという状況は一切なかったので、今回のことは実に意外であった。ひどく困惑している。

(いえ、でも前世も誰かに心配されたような……)

『あなたはもう少し、肩の力を抜くべきだと思います』

 そう言ってくれたのは誰だったろうか……。

(リーヴェス? ……いいえ、彼とはそんなこと言い合う関係ではなかった)

 では誰が……と必死に記憶を思い出そうとしていると、図書室へ様子を見に来た母がそっとルティアの隣に腰かけてきた。

「お母様。どうなされたのですか」
「ええ、実はあなたに提案したことがあって……」

 ルティアは少しだけ身構える。

「ねぇ、ルティア。来週、王宮で帰国した第三王子を祝うパーティーが開かれるの」
「そういえば王妃殿下がおっしゃっていましたね」

 久しぶりに第三王子をお披露目できるとあって、恐らく盛大な宴となるだろう。

「ええ。それでね……私の姪も参加するんだけれど、まだ大勢の前に出るのに慣れていなくてね。よかったらあなたにそばについていてもらえないか、って妹から頼まれたの」

 要はお目付け役を頼みたいということらしい。

 別におかしな話ではない。叔母の娘はルティアより二つ歳が下で、社交の場にはまだ慣れていなかった。だから別に頼まれても不思議ではないのだが……

(わたしを社交界へ連れて行くのが本当の目的なのかしら)

「だめかしら?」

 母の眼差しはやはりどこか自分を気遣うようなもので、ルティアは罪悪感を抱く。たとえ母が自分を騙そうとしていても、それのどこがおかしいのだ。

 母は大事な娘のことを心配しているだけなのに。

(修道院へ入るよりも、普通に殿方と結婚して家庭を築いてほしいわよね……)

 その気持ちを突き放すほど、ルティアは非道にはなれなかった。

「だめなことなんてないわ、お母様。謹んでお受けいたします」

 ルティアの答えに母はほっとしたように微笑んだのだった。

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