前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
10、楽しめない舞踏会
パーティーの当日。茶会の時よりさらに気合を入れて着飾られ、ルティアは王宮へと連れて来られた。いつもよりたくさんの馬車が並んでおり、少し遅い到着なってしまった。
おかげで第三王子の風貌を見ることができず、ルティアと一緒に入場した夫人が残念そうに零していた。
件の姪はたしかに緊張しているようで、年の近いルティアの姿に幾分肩の力が抜けたようだ。母と叔母は親しくしている客に話しかけられ、ルティアは姪と共に端の方へ移動した。
飲み物や軽食を二人で適当につまんでいると、ちらほらと視線を感じる。見ればルティアと……姪と同じくらいの年頃だと思われる青年が何か言いたげな視線を投げかけていた。
(もしかしてダンスに誘いたいのかしら)
そして姪の方を見ると、青年の視線に気づいているのか、薄っすらと頬を染めて俯いている。
ルティアはくすりと笑い、彼女の耳元で「踊ってらっしゃいな」と囁いた。ぱっと姪が顔を上げ、何やら反論したげな、彼のことをどう思っているかばれてしまって恥ずかしいと言いたげな表情をしたが、やがてこくりと小さく頷き、おずおずと青年のもとへ歩いて行く。そして踊ってくれと差し伸べられた彼の手を取るのだった。
(かわいいこと)
女王であった時、ルティアは節制を徹底し、宴など不要だと一切開かなかった。確かに過度な催しは税金の無駄遣いとして庶民の反感を買うだろう。だが貴族同士の縁を繋ぐための場……未来ある若い者たちの出会いの場だと思えば、決して必要ないとは言えなかった。
(一度死んで、貴族に生まれたからこそわかるわ)
同じ上流階級に属していると言えど、やはり王族と貴族は違う。
(もし、そのことを理解できていたら、何か変わったかしら……)
「あの、よかったら踊っていただけないでしょうか」
前世のことに思いを馳せていたルティアは声をかけられてハッとする。とっさにリーヴェスかと身構えたが、違った。名前も知らない貴族の青年だった。
「ごめんなさい。姪のお目付け役を仰せつかっているんです」
「そうだったんですか」
青年は去り難いのか、まだルティアとの会話を続けようと話題を振ってくる。無下にするわけにもいかず、適当に会話しながら、姪の踊りが終わった頃を見計らって青年に別れを告げた。
「ルティア。面倒をかけて、ごめんなさいね」
ちょうど母と叔母が戻ってきたので、ほっとする。だが叔母が「せっかくだからあなたも踊ってらっしゃい」と言ったことで内心困ってしまった。
「ほら、そちらの男性があなたのことを誘いたがっているわ」
流れるように男性を宛がわれ、ルティアは断り切れなかった。
(一曲だけ踊って、帰りましょう)
だがその男性の次を待っていたのか、姪が踊っている間話していた青年がどうか踊ってくださいと頼んできた。叔母はいいじゃないと言い、母もどこかばつの悪い表情をしながら踊ってらっしゃいとルティアに勧める。
一度断って、別の男性と踊った手前、ルティアはその青年とも踊るしかなかった。
そして今度こそもう終わりだと告げようとして、ルティアは相手の顔を見て固まった。
「最後にどうか私と踊っていただけませんか」
「公爵閣下……」
おかげで第三王子の風貌を見ることができず、ルティアと一緒に入場した夫人が残念そうに零していた。
件の姪はたしかに緊張しているようで、年の近いルティアの姿に幾分肩の力が抜けたようだ。母と叔母は親しくしている客に話しかけられ、ルティアは姪と共に端の方へ移動した。
飲み物や軽食を二人で適当につまんでいると、ちらほらと視線を感じる。見ればルティアと……姪と同じくらいの年頃だと思われる青年が何か言いたげな視線を投げかけていた。
(もしかしてダンスに誘いたいのかしら)
そして姪の方を見ると、青年の視線に気づいているのか、薄っすらと頬を染めて俯いている。
ルティアはくすりと笑い、彼女の耳元で「踊ってらっしゃいな」と囁いた。ぱっと姪が顔を上げ、何やら反論したげな、彼のことをどう思っているかばれてしまって恥ずかしいと言いたげな表情をしたが、やがてこくりと小さく頷き、おずおずと青年のもとへ歩いて行く。そして踊ってくれと差し伸べられた彼の手を取るのだった。
(かわいいこと)
女王であった時、ルティアは節制を徹底し、宴など不要だと一切開かなかった。確かに過度な催しは税金の無駄遣いとして庶民の反感を買うだろう。だが貴族同士の縁を繋ぐための場……未来ある若い者たちの出会いの場だと思えば、決して必要ないとは言えなかった。
(一度死んで、貴族に生まれたからこそわかるわ)
同じ上流階級に属していると言えど、やはり王族と貴族は違う。
(もし、そのことを理解できていたら、何か変わったかしら……)
「あの、よかったら踊っていただけないでしょうか」
前世のことに思いを馳せていたルティアは声をかけられてハッとする。とっさにリーヴェスかと身構えたが、違った。名前も知らない貴族の青年だった。
「ごめんなさい。姪のお目付け役を仰せつかっているんです」
「そうだったんですか」
青年は去り難いのか、まだルティアとの会話を続けようと話題を振ってくる。無下にするわけにもいかず、適当に会話しながら、姪の踊りが終わった頃を見計らって青年に別れを告げた。
「ルティア。面倒をかけて、ごめんなさいね」
ちょうど母と叔母が戻ってきたので、ほっとする。だが叔母が「せっかくだからあなたも踊ってらっしゃい」と言ったことで内心困ってしまった。
「ほら、そちらの男性があなたのことを誘いたがっているわ」
流れるように男性を宛がわれ、ルティアは断り切れなかった。
(一曲だけ踊って、帰りましょう)
だがその男性の次を待っていたのか、姪が踊っている間話していた青年がどうか踊ってくださいと頼んできた。叔母はいいじゃないと言い、母もどこかばつの悪い表情をしながら踊ってらっしゃいとルティアに勧める。
一度断って、別の男性と踊った手前、ルティアはその青年とも踊るしかなかった。
そして今度こそもう終わりだと告げようとして、ルティアは相手の顔を見て固まった。
「最後にどうか私と踊っていただけませんか」
「公爵閣下……」