前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
ルティアが母を見れば、謝るように目を伏せられた。
(やっぱり、今回わたしを誘ったのはこのためだったのね……)
それとも先ほど離れている間に公爵の方から接触があったのか。いずれにせよ、仕組まれたことだと思ってルティアは裏切られたような、複雑な気持ちになった。
「どうか」
ルティアの心中をよそに、リーヴェスが手を差し出す。引いてくれる様子はなかった。
「……どうぞお手柔らかに」
今日のリーヴェスは他の貴族がそうであるように燕尾服を着こなし、前髪を上げていた。いつもの彼も女性陣の視線を集めているだろうが、今日はことさら釘付けにしているようだった。
「はぁ……。やっぱりクローゼ公爵は素敵ねぇ」
「テオバルト殿下が今回の主役だけれど、私は断然閣下を推すわ!」
「一緒に踊っているご令嬢はどなたかしら」
リーヴェスと踊っている最中、周囲の視線や囁き声をこれでもかと感じたが、ルティアはひたすら踊りに専念した。そんなルティアの態度をリーヴェスが気づかないはずがない。
「怒っていますか」
「いいえ、怒っていませんわ」
今の彼は前世のリーヴェスと違う。わかっていても、居心地が悪く、一刻も早く曲が終わることを願った。
「ご結婚のお話を強引に進めてしまったことを――」
「ここではどうかそのお話はおやめください」
そばで聞き耳を立てられていると思うと、ルティアはゾッとした。
「……そのドレス、とてもよくお似合いです」
今日のルティアは赤と黒を基調としたドレスを着ていた。背中部分を黒のレースで見せ、赤い薔薇の花がアクセントに胸元を飾っている。
(血の色みたいで、あなたは怖くないの?)
そう尋ねてみたい気もしたが、前世の話をするわけにもいかなかったのでルティアは曖昧に微笑む。
「……ありがとうございます。閣下も、よく似合っていらっしゃいますわ」
彼もまた、礼儀的にお礼を述べる。だがその表情は少し照れているようで、本当に嬉しそうに見えた。
「こうしてあなたと踊ることができて、とても嬉しく思います」
「……そうですか」
(別人みたい)
前世の彼とは、こんなふうに踊ったことなど一度もなかった。いや、あったのだろうか。覚えていないのは、きっとあまりにも殺伐としていたか、淡々として記憶に残るほどの感情がなかったからだろう。
(はやく、終わらないかしら……)
とても長く感じた時間がようやく終わり、ルティアは母たちのもとへ戻ろうとする。しかしリーヴェスがルティアの細い手首を捕まえた。
「ルティア嬢。少しお話を――」
「ごめんなさい。母たちが待っていますので」
人混みを利用して、ルティアはリーヴェスから逃げた。踊っている男女にぶつからないよう避けて、ようやく母たちの姿が見えてくる。
「素敵だったわ、ルティア」
「ええ。閣下と踊る姿、とても様になっていたわ」
母と叔母をじっと見つめ返すことで、ルティアは己の心中を訴えた。二人は――特に母は、悪いことをしたという自覚があるのか、真っ先に目を逸らした。
「ルティア。姉さんを責めないで。あなたのことを心配しているのよ」
気づいた叔母が決して悪気があってしたのではないと弁解する。
母は叔母にルティアが結婚せず、修道院に入ることを伝えたのだろう。それで何とかルティアに考えを改めさせようと姪のお目付け役という名目で舞踏会に連れ出した。
母の気持ちもわかる。叔母がそれに協力したのも、同じ理由だろう。
――けれどこんなことをしても、ルティアの気持ちは変わらなかった。
「お母様。叔母様。いろいろ気を遣わせてしまってごめんなさい。でも、わたしの気持ちは変わりませんわ」
「ルティア……」
「少し疲れてしまったから、外で涼んできます」
母の辛そうな顔から逃げるように、ルティアはその場を逃げ出した。
(やっぱり、今回わたしを誘ったのはこのためだったのね……)
それとも先ほど離れている間に公爵の方から接触があったのか。いずれにせよ、仕組まれたことだと思ってルティアは裏切られたような、複雑な気持ちになった。
「どうか」
ルティアの心中をよそに、リーヴェスが手を差し出す。引いてくれる様子はなかった。
「……どうぞお手柔らかに」
今日のリーヴェスは他の貴族がそうであるように燕尾服を着こなし、前髪を上げていた。いつもの彼も女性陣の視線を集めているだろうが、今日はことさら釘付けにしているようだった。
「はぁ……。やっぱりクローゼ公爵は素敵ねぇ」
「テオバルト殿下が今回の主役だけれど、私は断然閣下を推すわ!」
「一緒に踊っているご令嬢はどなたかしら」
リーヴェスと踊っている最中、周囲の視線や囁き声をこれでもかと感じたが、ルティアはひたすら踊りに専念した。そんなルティアの態度をリーヴェスが気づかないはずがない。
「怒っていますか」
「いいえ、怒っていませんわ」
今の彼は前世のリーヴェスと違う。わかっていても、居心地が悪く、一刻も早く曲が終わることを願った。
「ご結婚のお話を強引に進めてしまったことを――」
「ここではどうかそのお話はおやめください」
そばで聞き耳を立てられていると思うと、ルティアはゾッとした。
「……そのドレス、とてもよくお似合いです」
今日のルティアは赤と黒を基調としたドレスを着ていた。背中部分を黒のレースで見せ、赤い薔薇の花がアクセントに胸元を飾っている。
(血の色みたいで、あなたは怖くないの?)
そう尋ねてみたい気もしたが、前世の話をするわけにもいかなかったのでルティアは曖昧に微笑む。
「……ありがとうございます。閣下も、よく似合っていらっしゃいますわ」
彼もまた、礼儀的にお礼を述べる。だがその表情は少し照れているようで、本当に嬉しそうに見えた。
「こうしてあなたと踊ることができて、とても嬉しく思います」
「……そうですか」
(別人みたい)
前世の彼とは、こんなふうに踊ったことなど一度もなかった。いや、あったのだろうか。覚えていないのは、きっとあまりにも殺伐としていたか、淡々として記憶に残るほどの感情がなかったからだろう。
(はやく、終わらないかしら……)
とても長く感じた時間がようやく終わり、ルティアは母たちのもとへ戻ろうとする。しかしリーヴェスがルティアの細い手首を捕まえた。
「ルティア嬢。少しお話を――」
「ごめんなさい。母たちが待っていますので」
人混みを利用して、ルティアはリーヴェスから逃げた。踊っている男女にぶつからないよう避けて、ようやく母たちの姿が見えてくる。
「素敵だったわ、ルティア」
「ええ。閣下と踊る姿、とても様になっていたわ」
母と叔母をじっと見つめ返すことで、ルティアは己の心中を訴えた。二人は――特に母は、悪いことをしたという自覚があるのか、真っ先に目を逸らした。
「ルティア。姉さんを責めないで。あなたのことを心配しているのよ」
気づいた叔母が決して悪気があってしたのではないと弁解する。
母は叔母にルティアが結婚せず、修道院に入ることを伝えたのだろう。それで何とかルティアに考えを改めさせようと姪のお目付け役という名目で舞踏会に連れ出した。
母の気持ちもわかる。叔母がそれに協力したのも、同じ理由だろう。
――けれどこんなことをしても、ルティアの気持ちは変わらなかった。
「お母様。叔母様。いろいろ気を遣わせてしまってごめんなさい。でも、わたしの気持ちは変わりませんわ」
「ルティア……」
「少し疲れてしまったから、外で涼んできます」
母の辛そうな顔から逃げるように、ルティアはその場を逃げ出した。