前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
 とっさに反応できず、彼の顔を呆然と見上げてしまう。

「陛下。どうか私をお許しください。前世であなたを裏切った私を――」
「いやっ!」

 リーヴェスが謝罪の言葉を口にした瞬間、ルティアは強烈な嫌悪感を抱き、彼を突き飛ばしていた。そして呆然とする彼を物凄い目で睨みつけていた。

(よくもそんなことが言える……!)

 憎しみとも言える激しい感情は、ルティアではなく、女王アリーセのものだった。

「ははっ」

 突き飛ばされてショックを受けていたリーヴェスは、なぜか突然笑い始めた。怪訝に見やるルティアに、リーヴェスは熱のこもった口調で告げた。

「やっぱり記憶があるんですね、陛下には」
「っ、ちがう!」

 だが即答したことで、かえってあると答えているようなものだ。

 リーヴェスは笑みを深めたまま、顔を近づける。紫色の瞳は熱を込め、ただルティアしか映していない。

「陛下。どうかもう一度私にチャンスをください。今度こそあなたと添い遂げる機会を――」
「そのお嬢さんは嫌がっているように見えるのだが、それでも貴公は告白を続けるつもりか」

 遠くまで聞こえるような朗々とした声が響く。びくりと肩を揺らしたルティアとリーヴェスは人気のない暗闇へと目を向けた。

 正体を現せという無言の呼びかけが聴こえたのか、まるで舞台俳優のように彼は月明かりの下へ出てきた。

 日焼けした浅黒い肌に、烏の濡れ羽のように光る黒髪。力強い意思を感じさせる瞳はルティアの青より深い色で……。

 その顔を見た瞬間、ルティアの心臓がどくんと跳ねた。

(あ……)

 胸が、燃えるように熱い。剣で突き刺されたように痛い。

「おまえは――」

 リーヴェスは男の方を見ていたが、男はただ一人、ルティアを射貫くように見つめていた。ルティアもまた、男から目が離せなかった。
 男はルティアを――女王アリーセを殺した男だったから。

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