前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
「なんだ?」
「……いえ、なんでもありません」
たぶん記憶があったら、リーヴェスのような態度をとるだろう。あるいはわざと記憶を隠して、ルティアを傷つけようとでも企んでいるか……。
(でも、あまりそういう人には見えない……)
前世の性格を考慮しても、そんな回りくどいことするくらいなら直接制裁を下すタイプに見える。
いずれにせよ、ルティアも自分から前世のことを語るつもりはなかったので、このままにしておこうと決めた。聞くにしても、まだ早計だ。迂闊なことはするべきではないと、冷静な自分が警告した。
(それより、あれからリーヴェスはどうなったのかしら)
「クローゼ公爵なら、お引き取り願ったから王宮にはいない。あなたに会うことも控えるよう告げたから、見舞いにも来ない。安心していいぞ」
まるで自分の心を覗いたようにピタリと教えられたので、ルティアは少し狼狽える。
「あの、昨夜のことは……」
「公爵があなたに迫っていたことか?」
「……公爵とはただ話をしていただけです」
男女のもつれだと周囲に誤解されることをルティアは恐れ、必死で説明しようとする。
だがそんな事情もすべてお見通しだといわんばかりに、テオバルトは大きく頷いてみせた。
「大丈夫。あなたが立て続けに踊ったばかりに疲れて中庭で倒れかけたところを、偶然立ち話していた公爵と俺で介抱したということになっている」
「……重ね重ね、ご配慮くださりありがとうございます」
「構わない。……これは答えたくないのならばいいのだが、公爵とは別に恋仲ではないんだな?」
「いいえ、違います」
ルティアがきっぱりと否定すれば、なぜかテオバルトはにっこりと笑った。
「なら、いい」
それはどういう意味か。
(何を考えているか、さっぱりわからないわ)
「もしまた何かあったら、今度は股間を蹴り上げてやればいい」
「それはさすがに……」
「男の急所を狙えば、さすがに公爵でも大人しくなるさ」
戸惑うルティアをよそに、テオバルトはカップに口をつけ、そうだというように言った。
「自己紹介をまだきちんとしていなかったな」
「いえ、もうよく存じておりますので……」
「知っているのは俺がこの国の第三王子ということだけだろう?」
「……あちこちの国を遊学なされていたんですよね?」
「ああ。探し物をしていてな」
「探し物、ですか?」
一体何だろうか。
「だがもう見つかったから、必要はない」
その探し物が何なのか教えず、テオバルトは優しい眼差しでルティアを見つめた。……なんとなく、落ち着かない気持ちになる。
「そうなのですか。それはよかった、ですね」
「ああ。本当に、よかった」
「えっと……ではもう、外国へ行く必要はなくなりますね」
「そうだな。そろそろ腰を据えるよう母上にも口酸っぱく言われていたから、助かった」
「先日も茶会の席で、ずいぶんと殿下のことを心配なさっていました」
「婚約もせず、ふらふらと歩き回って困ったものだと述べていたのだろう?」
心配というより愚痴だと言いたげな口調にルティアは困った顔をする。
「王妃殿下にとっては、殿下は大事なご子息なのです。心配するのは、母親として当然ですわ」
テオバルトは急に黙り込んだ。もしかして機嫌を損ねたのだろうか。だが彼の表情は明るく、その瞳は何か期待するように輝いている。
「ルティア嬢」
「……なんでしょう」
「俺は今、二十三だ。正直結婚はまだ先でいいと思っていた。したいと思う相手がいなかったからだ」
ルティアは自分が緊張していることに気づいた。
「だが今は違う。どうしても将来を共に生きたいと思う女性が現れた」
テオバルトが次に何を発するのか、怖くて――
「あなたと結婚したい」
それ以外の感情があることを、ルティアはテオバルトに突きつけられた。
「……いえ、なんでもありません」
たぶん記憶があったら、リーヴェスのような態度をとるだろう。あるいはわざと記憶を隠して、ルティアを傷つけようとでも企んでいるか……。
(でも、あまりそういう人には見えない……)
前世の性格を考慮しても、そんな回りくどいことするくらいなら直接制裁を下すタイプに見える。
いずれにせよ、ルティアも自分から前世のことを語るつもりはなかったので、このままにしておこうと決めた。聞くにしても、まだ早計だ。迂闊なことはするべきではないと、冷静な自分が警告した。
(それより、あれからリーヴェスはどうなったのかしら)
「クローゼ公爵なら、お引き取り願ったから王宮にはいない。あなたに会うことも控えるよう告げたから、見舞いにも来ない。安心していいぞ」
まるで自分の心を覗いたようにピタリと教えられたので、ルティアは少し狼狽える。
「あの、昨夜のことは……」
「公爵があなたに迫っていたことか?」
「……公爵とはただ話をしていただけです」
男女のもつれだと周囲に誤解されることをルティアは恐れ、必死で説明しようとする。
だがそんな事情もすべてお見通しだといわんばかりに、テオバルトは大きく頷いてみせた。
「大丈夫。あなたが立て続けに踊ったばかりに疲れて中庭で倒れかけたところを、偶然立ち話していた公爵と俺で介抱したということになっている」
「……重ね重ね、ご配慮くださりありがとうございます」
「構わない。……これは答えたくないのならばいいのだが、公爵とは別に恋仲ではないんだな?」
「いいえ、違います」
ルティアがきっぱりと否定すれば、なぜかテオバルトはにっこりと笑った。
「なら、いい」
それはどういう意味か。
(何を考えているか、さっぱりわからないわ)
「もしまた何かあったら、今度は股間を蹴り上げてやればいい」
「それはさすがに……」
「男の急所を狙えば、さすがに公爵でも大人しくなるさ」
戸惑うルティアをよそに、テオバルトはカップに口をつけ、そうだというように言った。
「自己紹介をまだきちんとしていなかったな」
「いえ、もうよく存じておりますので……」
「知っているのは俺がこの国の第三王子ということだけだろう?」
「……あちこちの国を遊学なされていたんですよね?」
「ああ。探し物をしていてな」
「探し物、ですか?」
一体何だろうか。
「だがもう見つかったから、必要はない」
その探し物が何なのか教えず、テオバルトは優しい眼差しでルティアを見つめた。……なんとなく、落ち着かない気持ちになる。
「そうなのですか。それはよかった、ですね」
「ああ。本当に、よかった」
「えっと……ではもう、外国へ行く必要はなくなりますね」
「そうだな。そろそろ腰を据えるよう母上にも口酸っぱく言われていたから、助かった」
「先日も茶会の席で、ずいぶんと殿下のことを心配なさっていました」
「婚約もせず、ふらふらと歩き回って困ったものだと述べていたのだろう?」
心配というより愚痴だと言いたげな口調にルティアは困った顔をする。
「王妃殿下にとっては、殿下は大事なご子息なのです。心配するのは、母親として当然ですわ」
テオバルトは急に黙り込んだ。もしかして機嫌を損ねたのだろうか。だが彼の表情は明るく、その瞳は何か期待するように輝いている。
「ルティア嬢」
「……なんでしょう」
「俺は今、二十三だ。正直結婚はまだ先でいいと思っていた。したいと思う相手がいなかったからだ」
ルティアは自分が緊張していることに気づいた。
「だが今は違う。どうしても将来を共に生きたいと思う女性が現れた」
テオバルトが次に何を発するのか、怖くて――
「あなたと結婚したい」
それ以外の感情があることを、ルティアはテオバルトに突きつけられた。