前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
14、リーヴェスとの違い
もし、前世の記憶がなかったら自分はどう受け止めただろうか。
ほぼ初対面で求婚するとは何を企んでいるのか、と疑う。あるいは馬鹿にしているのかと怒る。それとも王子様に結婚を申し込まれたと素直に浮かれて、胸をときめかせただろうか。わからない。
(何を考えているのかしら)
そしてそれは自分にも言えたことだった。
前世で自分を殺した男に結婚してほしいと告げられた。普通に考えれば、無理だという気持ちになるはずだ。それでなくとも、ルティアには結婚する願望はなかった。
だというのに、あの時彼女の心には迷いが生まれた。テオバルトの申し出を断っていいものか――断りたくない、という気持ちがほんの少しでもあったのだ。
(わたしは、彼を憎んでいないの?)
わからなかった。彼に関する記憶が曖昧で、部分的な所しか覚えていないことも要因だが、決してそれだけではない気もした。
(わたしのことはひとまず置いておくとして……やっぱり殿下には記憶がないんじゃないかしら)
殺したということは、ルティアを――アリーセを嫌い、憎んでいた。そんな女に結婚を申し込むことは、前世の所業を忘れていなければできないはずだ。
そこまで考え、ルティアはリーヴェスのことを思い出し、苦い気持ちになった。
(彼も前世ではあんなにわたしを嫌っていたのに、結婚を申し込んできた)
だがそれは自分を愛しているからではないと断言できる。彼はただ罪悪感を抱いているだけだ。そしてルティアはそんなリーヴェスと関わりたくないと思っている。
リーヴェスとテオバルト。この二人の差は一体何なのか。
「あの、お嬢様……」
物思いに耽っていたルティアに、メイドが気づかわしげに声をかけてくる。
「あ、ごめんなさい。なにかしら」
「いえ、お食事はこちらで召し上がりますか?」
「お母様たちと一緒に食べるわ」
「……本当に大丈夫ですか?」
まるで病人に接するような接し方に苦笑いする。
屋敷に帰宅してからルティアはまず母に涙ながらに謝られた。
『あなたが進みたいと思う未来を反対した罰が当たったんだわ。ごめんなさい、ルティア』
母はルティアが倒れたのを、自分のせいだと責任を感じていた。次いで父がこうなったら仕方がないというように諦めた口調で続けた。
『考えてみれば、神に奉仕する道も素晴らしい人生だ。私たちは娘の幸せを勝手に型にはめようとして、おまえの未来を奪うところだった。ルティア。これからは自分の好きなように生きなさい。私たちはおまえの歩む道を応援するよ』
ただしばらくは身体を休めてほしいと懇願され、自室での療養を余儀なくされたのだった。
(お父様たちにあんな顔をさせたいわけではなかったのに……)
ファニーとフリッツもずいぶんと心配して、いつもは遊んでとせがむのに今回は部屋に近寄りもしない。
(別にどこも具合が悪いところはないのだから、もう大丈夫だと伝えなければ)
「ええ。ぜひお母様たちと一緒に食事をしたいの」
ルティアがメイドにそう伝えれば、安堵した表情を浮かべ、かしこまりましたと頭を下げた。
「あの、それから……」
「どうしたの?」
「実はテオバルト殿下からお見舞いの手紙と花束が届いておりまして……」
ほぼ初対面で求婚するとは何を企んでいるのか、と疑う。あるいは馬鹿にしているのかと怒る。それとも王子様に結婚を申し込まれたと素直に浮かれて、胸をときめかせただろうか。わからない。
(何を考えているのかしら)
そしてそれは自分にも言えたことだった。
前世で自分を殺した男に結婚してほしいと告げられた。普通に考えれば、無理だという気持ちになるはずだ。それでなくとも、ルティアには結婚する願望はなかった。
だというのに、あの時彼女の心には迷いが生まれた。テオバルトの申し出を断っていいものか――断りたくない、という気持ちがほんの少しでもあったのだ。
(わたしは、彼を憎んでいないの?)
わからなかった。彼に関する記憶が曖昧で、部分的な所しか覚えていないことも要因だが、決してそれだけではない気もした。
(わたしのことはひとまず置いておくとして……やっぱり殿下には記憶がないんじゃないかしら)
殺したということは、ルティアを――アリーセを嫌い、憎んでいた。そんな女に結婚を申し込むことは、前世の所業を忘れていなければできないはずだ。
そこまで考え、ルティアはリーヴェスのことを思い出し、苦い気持ちになった。
(彼も前世ではあんなにわたしを嫌っていたのに、結婚を申し込んできた)
だがそれは自分を愛しているからではないと断言できる。彼はただ罪悪感を抱いているだけだ。そしてルティアはそんなリーヴェスと関わりたくないと思っている。
リーヴェスとテオバルト。この二人の差は一体何なのか。
「あの、お嬢様……」
物思いに耽っていたルティアに、メイドが気づかわしげに声をかけてくる。
「あ、ごめんなさい。なにかしら」
「いえ、お食事はこちらで召し上がりますか?」
「お母様たちと一緒に食べるわ」
「……本当に大丈夫ですか?」
まるで病人に接するような接し方に苦笑いする。
屋敷に帰宅してからルティアはまず母に涙ながらに謝られた。
『あなたが進みたいと思う未来を反対した罰が当たったんだわ。ごめんなさい、ルティア』
母はルティアが倒れたのを、自分のせいだと責任を感じていた。次いで父がこうなったら仕方がないというように諦めた口調で続けた。
『考えてみれば、神に奉仕する道も素晴らしい人生だ。私たちは娘の幸せを勝手に型にはめようとして、おまえの未来を奪うところだった。ルティア。これからは自分の好きなように生きなさい。私たちはおまえの歩む道を応援するよ』
ただしばらくは身体を休めてほしいと懇願され、自室での療養を余儀なくされたのだった。
(お父様たちにあんな顔をさせたいわけではなかったのに……)
ファニーとフリッツもずいぶんと心配して、いつもは遊んでとせがむのに今回は部屋に近寄りもしない。
(別にどこも具合が悪いところはないのだから、もう大丈夫だと伝えなければ)
「ええ。ぜひお母様たちと一緒に食事をしたいの」
ルティアがメイドにそう伝えれば、安堵した表情を浮かべ、かしこまりましたと頭を下げた。
「あの、それから……」
「どうしたの?」
「実はテオバルト殿下からお見舞いの手紙と花束が届いておりまして……」