前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
 目線を合わせたままお願いされ、ルティアはどきりとする。そしてそっと目を伏せた。

「殿下。以前は、きちんと答えを告げずに申し訳ありませんでした」
「突然話が変わったな。……答えを急いたつもりはないが、その様子だともう決まっているみたいだな」
「はい」

 背筋を伸ばしたテオバルトを真っ直ぐと見上げ、ルティアは告げた。

「わたしは誰とも結婚するつもりはありません」
「……修道院へ行くそうだな」

 両親がいろいろと察して、先に話したのだろう。

「はい」
「神に一生を捧げる、か。俺もそういう人間と会ったことがある。みな並大抵の覚悟ではなかった」
「承知しております。それでも……わたしにはこの道しかないのです」

 テオバルトはルティアの目を見つめ返したまま、しばし黙り込んだ。

 彼女の心はその間苦しく、ともすれば流されてしまいそうになったが、グッと堪えて彼が理解してくれることを待った。やがて――

「わかった」

 テオバルトは納得してくれた。ルティアがほっとすると同時に、「だが」と彼は口の端をニッと吊り上げた。

「少しだけ時間が欲しい」
「どういう意味でしょうか」

 嫌な予感がして、つい警戒した目つきで見てしまう。

「なに。難しいことじゃない。今日のように俺と会って、こうして少し話をしてくれるだけでいい」
「……会って、話をするだけ?」
「そう。あなたと過ごした思い出が欲しいんだ」

 テオバルトは木々を見上げながら答えていたが、視線に気づいてまたルティアの方を見た。優しく、慈愛に満ちた表情だった。彼にそんな顔をされると、ルティアはわけもわからず胸が熱くなる。くすぐったいような、泣きたいような、いろんな感情が混ざり合って、苦しいのに温かい気持ちだった。

「あなたが修道院へ行くまで、一年……いや、半年で構わない。それまで俺にあなたとの思い出をくれないか」
「でも……」
「誓って、あなたが嫌だと思うことはしない。気が向いた時だけでいい。俺を男して見なくてもいい。ただの友人。顔見知り程度だって構わない。だからどうか、頼む」
「殿下……」

 行くな、と言われているわけではない。ただ自分と過ごした日々を記憶に残したいと言われているだけだ。だがそれがかえって、ルティアの覚悟をぐらつかせた。

(どうして彼はここまでしてわたしを引き留めるのかしら……)

 自分の一体どこに惹かれたのか。
 尋ねればいいのに、ルティアは怖かった。

「だめか?」

(……ずるいわ)

「わかりました」
「本当か!」

 テオバルトの顔が輝く。

「ありがとう、ルティア嬢!」
「……わたしのことはどうか、ルティアとお呼びください」
「いいのか?」
「ええ。顔見知り程度、ではなく、友人として、付き合っていきたいので」
「ルティア!」

 あまりにも嬉しそうにテオバルトが呼ぶので、ルティアは笑って返事をした。

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