前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
16、ゆっくりと
それからテオバルトは約束通り、ルティアの家へ訪れるようになった。突然に、ということはなく、必ず事前に伺っていいかどうか両親にも尋ね許可を得た。毎回二人きりで会うことも決してせず、必ずメイドや男性使用人をそばに控えさせた。
そしてルティアの家族が大丈夫かとこっそり様子を見ていることに気づくと、彼は快くこちらへ来て話すよう促した。そして母に流行のものをあれこれと教えてもらい、父と昨今の政治や経済などの諸問題について熱心に議論を交わし、ファニーとフリッツと本気で遊んだ。
ルティアは自分の大切な家族とテオバルトが過ごす光景が好きだった。
「ルティア」
どんなに家族との会話に熱中していても、途中で必ず自分の方を見て笑いかけることも……かけがえのない時に立ち会っている気がした。
「殿下が他国で多くの人々に気に入られた理由がよくわかります」
木陰に並んで座って、遠くで互いを捕まえようと逃げ回っているファニーとフリッツの姿を見ながらルティアはしみじみと呟いた。
「褒めても何もでないぞ」
仰向けに寝っ転がっているテオバルトの姿は、とても王子様には見えない。
「それは残念です」
片目を開けてこちらを伺うテオバルトに、ルティアは悪戯っぽく笑った。眩しそうに彼が目を細めた。
「そうだ。もう一つわかったことがあるんです」
「なんだ?」
「王妃殿下の心配なさっていた気持ちですわ」
テオバルトはその社交性で多くの交友関係を築いてきた。だが広すぎて、何か危険なことに巻き込まれるのではないかと不安を覚えたことだろう。自分の手を離れていくような寂しさも感じていたはずだ。
「ほぉ。それはそれは。あなたのような聡明な理解者を得られて、母上もさぞお喜びになるだろう」
「もう。茶化さないでください」
「茶化してないさ」
テオバルトは行儀悪くそのまま肘をつき、上目遣いでルティアの顔を見る。
「俺がようやくこの国に留まり、ご令嬢と仲良くしていることに安堵していらした」
「……外堀から埋めていくのが、あなたの作戦なのですか」
その言葉に棘を含ませてしまったのは、以前王宮で王妃から「あなたがそうなってくれるなら、嬉しいわ」と意味ありげなことを言われたからだ。
王妃はルティアがテオバルトの恋人だと思っているようで、妃になることを期待していた。
「いいや、母上の都合のいい想像だ。何か言われたか? すまない。今度はっきりと、きみとは友人関係だと言っておく」
「……王妃殿下が勘違いなさるのも無理はありません」
王妃だけでない。国王や、テオバルトの兄である王子たちも、会うたびにやけにルティアを気遣う言葉をかけてくる。
今までテオバルトはどんな女性とも付き合ってこなかった。身分も顔もいいので、寄ってくる女性は大勢いたはずなのに、悉く相手にしなかったという。実は女性に興味がないのではないかと言われるくらい、女の影がなかった。
そんな彼が突然ルティアに構い始めれば、特別な感情があると思われても仕方がない。
「わたしはあなたの大事なご家族の気持ちに応えることもできず……悪戯に期待させてしまって申し訳なく思うのです」
「ルティア……」
彼はグッと奥歯を噛みしめ、身体を起こす。
「悪かった、ルティア。あなたを追いつめるつもりはなかった」
真摯に謝ってくるテオバルトにルティアはかぶりを振った。
「あなたは何も悪くありません。ただわたしが……」
辛くなる。テオバルトと一緒にいるのが心地よくて、もっとずっと一緒にいたいと望んでしまいそうで……修道院へ行く意思を挫かれるのが怖かった。
そしてルティアの家族が大丈夫かとこっそり様子を見ていることに気づくと、彼は快くこちらへ来て話すよう促した。そして母に流行のものをあれこれと教えてもらい、父と昨今の政治や経済などの諸問題について熱心に議論を交わし、ファニーとフリッツと本気で遊んだ。
ルティアは自分の大切な家族とテオバルトが過ごす光景が好きだった。
「ルティア」
どんなに家族との会話に熱中していても、途中で必ず自分の方を見て笑いかけることも……かけがえのない時に立ち会っている気がした。
「殿下が他国で多くの人々に気に入られた理由がよくわかります」
木陰に並んで座って、遠くで互いを捕まえようと逃げ回っているファニーとフリッツの姿を見ながらルティアはしみじみと呟いた。
「褒めても何もでないぞ」
仰向けに寝っ転がっているテオバルトの姿は、とても王子様には見えない。
「それは残念です」
片目を開けてこちらを伺うテオバルトに、ルティアは悪戯っぽく笑った。眩しそうに彼が目を細めた。
「そうだ。もう一つわかったことがあるんです」
「なんだ?」
「王妃殿下の心配なさっていた気持ちですわ」
テオバルトはその社交性で多くの交友関係を築いてきた。だが広すぎて、何か危険なことに巻き込まれるのではないかと不安を覚えたことだろう。自分の手を離れていくような寂しさも感じていたはずだ。
「ほぉ。それはそれは。あなたのような聡明な理解者を得られて、母上もさぞお喜びになるだろう」
「もう。茶化さないでください」
「茶化してないさ」
テオバルトは行儀悪くそのまま肘をつき、上目遣いでルティアの顔を見る。
「俺がようやくこの国に留まり、ご令嬢と仲良くしていることに安堵していらした」
「……外堀から埋めていくのが、あなたの作戦なのですか」
その言葉に棘を含ませてしまったのは、以前王宮で王妃から「あなたがそうなってくれるなら、嬉しいわ」と意味ありげなことを言われたからだ。
王妃はルティアがテオバルトの恋人だと思っているようで、妃になることを期待していた。
「いいや、母上の都合のいい想像だ。何か言われたか? すまない。今度はっきりと、きみとは友人関係だと言っておく」
「……王妃殿下が勘違いなさるのも無理はありません」
王妃だけでない。国王や、テオバルトの兄である王子たちも、会うたびにやけにルティアを気遣う言葉をかけてくる。
今までテオバルトはどんな女性とも付き合ってこなかった。身分も顔もいいので、寄ってくる女性は大勢いたはずなのに、悉く相手にしなかったという。実は女性に興味がないのではないかと言われるくらい、女の影がなかった。
そんな彼が突然ルティアに構い始めれば、特別な感情があると思われても仕方がない。
「わたしはあなたの大事なご家族の気持ちに応えることもできず……悪戯に期待させてしまって申し訳なく思うのです」
「ルティア……」
彼はグッと奥歯を噛みしめ、身体を起こす。
「悪かった、ルティア。あなたを追いつめるつもりはなかった」
真摯に謝ってくるテオバルトにルティアはかぶりを振った。
「あなたは何も悪くありません。ただわたしが……」
辛くなる。テオバルトと一緒にいるのが心地よくて、もっとずっと一緒にいたいと望んでしまいそうで……修道院へ行く意思を挫かれるのが怖かった。