前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
王宮に着き、会場となる大広間に入場する。煌びやかな世界は何度来ても別世界に迷い込んだようで、いろんな感情を抱かせる。
(以前は玉座から見下ろす立場だったのに)
だがそれも数えるほどだった。
自分が現れると、それまで賑やかだった会場がいつもシンと静まった。まるで今から処刑でも行われるように空気が凍るので、リーヴェスだけを出席させてアリーセは欠席するようになったのだ。
言い出したのはアリーセ本人からであったが、それとなく勧めたのは重臣の一人で、反対しなかったのはリーヴェス含め大勢だった。
(リーヴェスも、今日は来ているのかしら……)
あれから彼の訪問は全くない。
倒れた出来事のせいで、もう諦めたのだろう。その方がよかった。
我ながら薄情だと思っていると、国王一家の来場が告げられる。王太子含めた三人の王子も夫妻の後に続く。
その一人、テオバルトに自然と視線が吸い寄せられる。彼は軍の正装をしていた。濃紺のジャケットに、金色の肩章と飾緒が彼の動きと共に誇らしげに輝いて見えた。
(彼がいつも気軽に接してくれるから特に意識しなかったけれど、本当は気軽に接することのできない身分なのよね……)
それは前世にも言えたかもしれない。前世の方が、一生交わらない関係だと言えた。
彼は奴隷で、自分は女王だったのだから。
ルティアが何やら寂しい気持ちになりかけた時、不意にテオバルトがこちらを見つめた。周囲がざわつく。自分を見たのではないかと色めく令嬢たちもいたが、テオバルトは確かにルティアを見ていた。
その証拠に国王の挨拶が終わり、踊りの音楽が流れ始めると、彼は迷うことなく真っすぐとこちらへやってきたからだ。
「ルティア。俺と踊ってくれ」
興味津々に視線を注いでくる外野など一切気にせず、直球で手を差し出したテオバルトにルティアは羞恥を通り越して、呆気にとられ、やがて笑みを浮かべた。
「ええ。よろこんで」
他人の目を気にする必要なんてない。
テオバルトは思い出が欲しいと願ったのだ。そしてルティアも彼との思い出が欲しい。
たとえ神の世界へ入るとしても、今日のこの日のことを忘れないために。
だから彼の差し出した手をとった。
ルティアたちは大広間の真ん中で踊ることになった。二人を見たいという思いから周りが自然と道を開けた結果であった。だが本人たちは周囲の思惑に気づくことなく、互いの姿を目に焼きつけるように踊っていた。
「ルティア。そのドレス、とても似合っている」
「本当ですか?」
「ああ。遠目から見て、すぐにあなただと気づいた。他の誰よりも輝いていたからな」
「ふふ。ありがとうございます。殿下も、すごくお似合いです」
「兄上よりもか?」
腰をグッと引き寄せられ、鼻先がくっつくのではないかと思うほど近い距離で、ルティアは花咲くように微笑んだ。
「ええ。一番すてき」
テオバルトが相好を崩す。
「いいな、その言葉。もっと聞きたい」
「まぁ。わたしにばかり言わせるのですか」
「では俺も同じくらい述べよう。綺麗だ、ルティア」
「殿下も、かっこいいです」
互いに褒め合うのが戯れのようで、でも嘘偽りは一切なく、次々と心の底から溢れてくる。
二人は何曲も立て続けに踊り続け、ルティアが疲れてちょっと待ってとテオバルトの胸に手を当てると、彼はその手を握りしめた。顔を上げると、悪戯を想いついた少年のように笑い、「二人で抜け出そう」と甘く囁いた。
いつものルティアなら両親の目を気にして、周りから注目されていることに目敏く気づいて、未婚の令嬢がすべき振る舞いではないと断っただろう。
だが今夜は違った。相手がテオバルトだったから。甘い誘惑に勝てなかった。
「はい。連れて行ってください」
相手の手を固く握りしめ、二人は喧騒から逃げ出した。
(以前は玉座から見下ろす立場だったのに)
だがそれも数えるほどだった。
自分が現れると、それまで賑やかだった会場がいつもシンと静まった。まるで今から処刑でも行われるように空気が凍るので、リーヴェスだけを出席させてアリーセは欠席するようになったのだ。
言い出したのはアリーセ本人からであったが、それとなく勧めたのは重臣の一人で、反対しなかったのはリーヴェス含め大勢だった。
(リーヴェスも、今日は来ているのかしら……)
あれから彼の訪問は全くない。
倒れた出来事のせいで、もう諦めたのだろう。その方がよかった。
我ながら薄情だと思っていると、国王一家の来場が告げられる。王太子含めた三人の王子も夫妻の後に続く。
その一人、テオバルトに自然と視線が吸い寄せられる。彼は軍の正装をしていた。濃紺のジャケットに、金色の肩章と飾緒が彼の動きと共に誇らしげに輝いて見えた。
(彼がいつも気軽に接してくれるから特に意識しなかったけれど、本当は気軽に接することのできない身分なのよね……)
それは前世にも言えたかもしれない。前世の方が、一生交わらない関係だと言えた。
彼は奴隷で、自分は女王だったのだから。
ルティアが何やら寂しい気持ちになりかけた時、不意にテオバルトがこちらを見つめた。周囲がざわつく。自分を見たのではないかと色めく令嬢たちもいたが、テオバルトは確かにルティアを見ていた。
その証拠に国王の挨拶が終わり、踊りの音楽が流れ始めると、彼は迷うことなく真っすぐとこちらへやってきたからだ。
「ルティア。俺と踊ってくれ」
興味津々に視線を注いでくる外野など一切気にせず、直球で手を差し出したテオバルトにルティアは羞恥を通り越して、呆気にとられ、やがて笑みを浮かべた。
「ええ。よろこんで」
他人の目を気にする必要なんてない。
テオバルトは思い出が欲しいと願ったのだ。そしてルティアも彼との思い出が欲しい。
たとえ神の世界へ入るとしても、今日のこの日のことを忘れないために。
だから彼の差し出した手をとった。
ルティアたちは大広間の真ん中で踊ることになった。二人を見たいという思いから周りが自然と道を開けた結果であった。だが本人たちは周囲の思惑に気づくことなく、互いの姿を目に焼きつけるように踊っていた。
「ルティア。そのドレス、とても似合っている」
「本当ですか?」
「ああ。遠目から見て、すぐにあなただと気づいた。他の誰よりも輝いていたからな」
「ふふ。ありがとうございます。殿下も、すごくお似合いです」
「兄上よりもか?」
腰をグッと引き寄せられ、鼻先がくっつくのではないかと思うほど近い距離で、ルティアは花咲くように微笑んだ。
「ええ。一番すてき」
テオバルトが相好を崩す。
「いいな、その言葉。もっと聞きたい」
「まぁ。わたしにばかり言わせるのですか」
「では俺も同じくらい述べよう。綺麗だ、ルティア」
「殿下も、かっこいいです」
互いに褒め合うのが戯れのようで、でも嘘偽りは一切なく、次々と心の底から溢れてくる。
二人は何曲も立て続けに踊り続け、ルティアが疲れてちょっと待ってとテオバルトの胸に手を当てると、彼はその手を握りしめた。顔を上げると、悪戯を想いついた少年のように笑い、「二人で抜け出そう」と甘く囁いた。
いつものルティアなら両親の目を気にして、周りから注目されていることに目敏く気づいて、未婚の令嬢がすべき振る舞いではないと断っただろう。
だが今夜は違った。相手がテオバルトだったから。甘い誘惑に勝てなかった。
「はい。連れて行ってください」
相手の手を固く握りしめ、二人は喧騒から逃げ出した。