前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
20、会いに行かされる
(わたし、もしかしてはめられたのかしら……)
ゴトゴトと王宮へ向かう馬車に揺られながら、ルティアはここ数日の自分の振る舞いを思い返していた。
テオバルトと約束したとおり、ルティアは毎日王宮へ足を運んでいた。身だしなみに気を遣い、馬車の揺れに耐えるなど、わりと負担ではあるが、一国の王子が世俗を捨てる損失を考えれば軽いものだ。
(でも、なんだか……)
『おお、ルティア。来てくれたか!』
彼は宛がわれた執務を迅速に片付けると、後はずっとルティアの相手をした。美味しい菓子を食べさせ、迷路がある王宮の庭園を一緒に散歩したり、歴代の宮廷画家が描いた絵画を鑑賞して……テオバルトはルティアのおかげで楽しい時を過ごせたと、必ず別れ際お礼を述べるが、楽しませてもらっているのが自分の方だとルティアは毎回思う。
また王宮という場であるため、どうしたって他人の目にも触れてしまい、彼が日頃親しくしているという友人も紹介された。
『俺の大切な友人だ』
彼は決してルティアを恋人だとは紹介しなかった。変なことも決してせず、レディとして接してくれる。あらぬ誤解を与えない、と以前言った言葉をきちんと守っているのもわかる。
(なのにこう……じわじわ外堀を埋められている気がするのは自意識過剰かしら……)
『ルティア嬢はテオの大事な友人なんだってな』
『少々押しが強いところがある弟だが、どうぞよろしく頼む』
第二王子と王太子にそれぞれかけられた言葉も、ただの友人にかける言葉として受け止めていいものか……。
悩んでいる間にも、王宮へ到着してしまう。
「ルティア様。お待ちしておりました」
扉が開くと同時に、頭を下げられた。
もう日課のように護衛の騎士がルティアをテオバルトのもとへ案内する。その途中も声をかけられ、テオバルトにどうぞよろしくと言われた。
(殿下の人柄が、こうしてわたしにも気さくに話しかけてくれるんだわ)
考え過ぎだ、とルティアは話しかけてくる人々に笑みを返した。
「今日も殿下は執務室に?」
「ええ。でも午前中に公務は終わっているはずですから――」
「あ、ルティア嬢! こんにちは」
テオバルトの友人であり、側近でもあるクルトがちょうど執務室が出てきて、ルティアに挨拶する。
「こんにちは、クルト卿」
彼はずいぶんと機嫌がいいようだった。
「何かいいことでもあったのですか」
「ええ! ルティア嬢が毎日来てくださるおかげで、殿下も仕事が大いにはかどって、こちらとしても非常に助かっております」
そうなの? とルティアは少し疑問に思った。
「殿下は仕事熱心な方だと伺っておりますが……」
「うーん……人と何かを決める時の交渉においては非常に優秀な方です。ですが書類仕事はどうも気が乗らないようで……いつもどうやる気を出させるか手を焼いていたのです」
「まぁ。そうなの……」
テオバルトにもそういった面があるとは意外だ。しかし交渉が得意というのは、実によくわかる。まさに自分も今もその術中にはまっているのではないかと考えているところだったから。
「ですから、ルティア嬢に毎日欠かさず殿下のもとへ足を運んでいただき、本当にありがたいです」
「いえ、わたしはそんな――」
クルトはぐっと距離を詰め、白い手袋をはめたルティアの手をガシッと握ってくる。
「これからも殿下のこと、どうぞよろしくお願いいたします。融通が利かず、腹黒い一面もおありですが、決してあなたさまを悲しませることはしないと思うので、何卒どうぞうちの殿下を――」
「おまえは俺の母親か」
「あ、殿下」
扉が開き、呆れた表情をしたテオバルトが顔を出した。と同時に、クルトがパッと手を放す。もう二、三秒遅ければ、鋭い眼光に晒されていただろう。
ゴトゴトと王宮へ向かう馬車に揺られながら、ルティアはここ数日の自分の振る舞いを思い返していた。
テオバルトと約束したとおり、ルティアは毎日王宮へ足を運んでいた。身だしなみに気を遣い、馬車の揺れに耐えるなど、わりと負担ではあるが、一国の王子が世俗を捨てる損失を考えれば軽いものだ。
(でも、なんだか……)
『おお、ルティア。来てくれたか!』
彼は宛がわれた執務を迅速に片付けると、後はずっとルティアの相手をした。美味しい菓子を食べさせ、迷路がある王宮の庭園を一緒に散歩したり、歴代の宮廷画家が描いた絵画を鑑賞して……テオバルトはルティアのおかげで楽しい時を過ごせたと、必ず別れ際お礼を述べるが、楽しませてもらっているのが自分の方だとルティアは毎回思う。
また王宮という場であるため、どうしたって他人の目にも触れてしまい、彼が日頃親しくしているという友人も紹介された。
『俺の大切な友人だ』
彼は決してルティアを恋人だとは紹介しなかった。変なことも決してせず、レディとして接してくれる。あらぬ誤解を与えない、と以前言った言葉をきちんと守っているのもわかる。
(なのにこう……じわじわ外堀を埋められている気がするのは自意識過剰かしら……)
『ルティア嬢はテオの大事な友人なんだってな』
『少々押しが強いところがある弟だが、どうぞよろしく頼む』
第二王子と王太子にそれぞれかけられた言葉も、ただの友人にかける言葉として受け止めていいものか……。
悩んでいる間にも、王宮へ到着してしまう。
「ルティア様。お待ちしておりました」
扉が開くと同時に、頭を下げられた。
もう日課のように護衛の騎士がルティアをテオバルトのもとへ案内する。その途中も声をかけられ、テオバルトにどうぞよろしくと言われた。
(殿下の人柄が、こうしてわたしにも気さくに話しかけてくれるんだわ)
考え過ぎだ、とルティアは話しかけてくる人々に笑みを返した。
「今日も殿下は執務室に?」
「ええ。でも午前中に公務は終わっているはずですから――」
「あ、ルティア嬢! こんにちは」
テオバルトの友人であり、側近でもあるクルトがちょうど執務室が出てきて、ルティアに挨拶する。
「こんにちは、クルト卿」
彼はずいぶんと機嫌がいいようだった。
「何かいいことでもあったのですか」
「ええ! ルティア嬢が毎日来てくださるおかげで、殿下も仕事が大いにはかどって、こちらとしても非常に助かっております」
そうなの? とルティアは少し疑問に思った。
「殿下は仕事熱心な方だと伺っておりますが……」
「うーん……人と何かを決める時の交渉においては非常に優秀な方です。ですが書類仕事はどうも気が乗らないようで……いつもどうやる気を出させるか手を焼いていたのです」
「まぁ。そうなの……」
テオバルトにもそういった面があるとは意外だ。しかし交渉が得意というのは、実によくわかる。まさに自分も今もその術中にはまっているのではないかと考えているところだったから。
「ですから、ルティア嬢に毎日欠かさず殿下のもとへ足を運んでいただき、本当にありがたいです」
「いえ、わたしはそんな――」
クルトはぐっと距離を詰め、白い手袋をはめたルティアの手をガシッと握ってくる。
「これからも殿下のこと、どうぞよろしくお願いいたします。融通が利かず、腹黒い一面もおありですが、決してあなたさまを悲しませることはしないと思うので、何卒どうぞうちの殿下を――」
「おまえは俺の母親か」
「あ、殿下」
扉が開き、呆れた表情をしたテオバルトが顔を出した。と同時に、クルトがパッと手を放す。もう二、三秒遅ければ、鋭い眼光に晒されていただろう。