前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
21、ずっと探していたもの
ルティアは目を瞠った。
「わたし?」
「そうだ」
「わたしが、探し物……?」
「ああ。あなたをずっと探していた」
(どういう意味?)
「冗談を――」
「言っているつもりはない」
ずっと探していたということは、ルティアのことを――女王アリーセのことを、前世の記憶を覚えているのか。だけど、それならどうして彼は今、優しい目をして自分を見つめることができるのだろう。
(わたしを、憎んではいないの?)
「以前も言っただろう? あなたに出会えたことで、もう外へ行く必要はなくなったと」
「殿下はその……わたしに一目惚れしたのですか?」
自分で尋ねるには恥ずかしかったが、勇気を出して口にした。
「ああ。そうとも言える」
どうもはっきりしない。
「でも、ずっと探していたって……」
「この先の未来を一緒に歩きたいと思える人物を探していた。その人はこの国にずっといたわけさ」
(? ……つまり、将来の花嫁候補を探し求めてあちこち遊学していた、ということ?)
記憶の有無は関係ないのか。
未だ疑問の消えないルティアを、片肘をつきながらテオバルトがニヤニヤと眺めている。まるで餌を隠されてあたふたする小動物を面白がるような表情だった。気づいたルティアはつい恨みがましい目で睨んでしまう。
「真面目に答えていますか?」
「もちろんだ。嘘偽りは一切ない。俺はあなたに会うために、今まで生きてきたんだ」
歯の浮くような台詞だったが、なぜかルティアは胸を衝かれた。彼の口調が真剣で、噛みしめるような響きを持っていたからか。
「あと、もう一つ。諸国を回っていた理由がある」
「何ですか」
「平和のためだ」
「平和……」
そうだ、と彼は両手を組み、これまでのことを思い出すように目を閉じた。
「悪意というものは、どこにでもあるものだ。無意識にしろ、意図的にしろ、種は蒔かれ、芽吹いてしまう。だがその芽に気づき、成長させるかどうかは、俺たちの責任だ」
テオバルトの言葉にルティアはどきりとする。
「無能な政治家が悪戯に戦意を煽り、鎮火しなかった外交官が戦争を起こさせる。一度始まったものは、なかなか終わらない。泥沼化して、多くのものを失った時にようやく過ちに気づく」
(気づいた時には、責任をとる人間はいない……)
前世の自分は、そうだった。
「幸い我が国は優秀な者ばかりだ。父上も、兄上も。だから外回りは、俺が受け持とうと思ったんだ」
「……あなたの話し方が妙にお上手なのも、その過程で得たものなんですね」
ルティアが納得したというように返せば、テオバルトは目を開けてふっと微笑んだ。
「そうかもしれない。武器を手にして脅すわけにはいかないからな」
(前世の彼とは違う……)
奴隷であった彼は、戦争に駆り出され、命令される限り敵の命を奪った。その手には剣が握られていた。平和のために、たくさんの血を流させた。
だが今の彼は何も持っていない。その代わり、相手を魅了する性分がある。最初はそんな気持ちではなかったのに、いつの間にか惹き込まれ、彼の言葉に従ってしまいたくなる。
敵意や不信感を持つ心を変えるのは難しいことだと、ルティアはよく知っている。
「あなたは、とてもすごいことをこれまでやってきたのですね」
ルティアではなく、女王アリーセとして、口にしていた。
「わたし?」
「そうだ」
「わたしが、探し物……?」
「ああ。あなたをずっと探していた」
(どういう意味?)
「冗談を――」
「言っているつもりはない」
ずっと探していたということは、ルティアのことを――女王アリーセのことを、前世の記憶を覚えているのか。だけど、それならどうして彼は今、優しい目をして自分を見つめることができるのだろう。
(わたしを、憎んではいないの?)
「以前も言っただろう? あなたに出会えたことで、もう外へ行く必要はなくなったと」
「殿下はその……わたしに一目惚れしたのですか?」
自分で尋ねるには恥ずかしかったが、勇気を出して口にした。
「ああ。そうとも言える」
どうもはっきりしない。
「でも、ずっと探していたって……」
「この先の未来を一緒に歩きたいと思える人物を探していた。その人はこの国にずっといたわけさ」
(? ……つまり、将来の花嫁候補を探し求めてあちこち遊学していた、ということ?)
記憶の有無は関係ないのか。
未だ疑問の消えないルティアを、片肘をつきながらテオバルトがニヤニヤと眺めている。まるで餌を隠されてあたふたする小動物を面白がるような表情だった。気づいたルティアはつい恨みがましい目で睨んでしまう。
「真面目に答えていますか?」
「もちろんだ。嘘偽りは一切ない。俺はあなたに会うために、今まで生きてきたんだ」
歯の浮くような台詞だったが、なぜかルティアは胸を衝かれた。彼の口調が真剣で、噛みしめるような響きを持っていたからか。
「あと、もう一つ。諸国を回っていた理由がある」
「何ですか」
「平和のためだ」
「平和……」
そうだ、と彼は両手を組み、これまでのことを思い出すように目を閉じた。
「悪意というものは、どこにでもあるものだ。無意識にしろ、意図的にしろ、種は蒔かれ、芽吹いてしまう。だがその芽に気づき、成長させるかどうかは、俺たちの責任だ」
テオバルトの言葉にルティアはどきりとする。
「無能な政治家が悪戯に戦意を煽り、鎮火しなかった外交官が戦争を起こさせる。一度始まったものは、なかなか終わらない。泥沼化して、多くのものを失った時にようやく過ちに気づく」
(気づいた時には、責任をとる人間はいない……)
前世の自分は、そうだった。
「幸い我が国は優秀な者ばかりだ。父上も、兄上も。だから外回りは、俺が受け持とうと思ったんだ」
「……あなたの話し方が妙にお上手なのも、その過程で得たものなんですね」
ルティアが納得したというように返せば、テオバルトは目を開けてふっと微笑んだ。
「そうかもしれない。武器を手にして脅すわけにはいかないからな」
(前世の彼とは違う……)
奴隷であった彼は、戦争に駆り出され、命令される限り敵の命を奪った。その手には剣が握られていた。平和のために、たくさんの血を流させた。
だが今の彼は何も持っていない。その代わり、相手を魅了する性分がある。最初はそんな気持ちではなかったのに、いつの間にか惹き込まれ、彼の言葉に従ってしまいたくなる。
敵意や不信感を持つ心を変えるのは難しいことだと、ルティアはよく知っている。
「あなたは、とてもすごいことをこれまでやってきたのですね」
ルティアではなく、女王アリーセとして、口にしていた。