前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
 テオバルトが瞠目する。ルティアはハッとした。

「ごめんなさい。わたしは何もできないのに、上からな物言いになってしまって……」
「いや、ありがとう。そう言ってもらえて、嬉しい。それに何もできないなんて、間違いだ」

 どういうことだと首をかしげるルティアに、テオバルトは書類の山を指差す。

「あなたのおかげで孤児院の子どもたちに未来を与えられている、との感謝の言葉が、たくさん届いている。あなたもまた、この国の平和に一役買っているというわけだ」
「そんな……わたしはたいしたことはしていません」
「飢えや貧困は治安の悪化に繋がるんだ。心が荒めば、他者を傷つけ、争いにも発展する。ちっともたいしたことじゃないぞ。もっと自信を持て」

 衒いなく真っすぐと褒められ、ルティアはくすぐったい気持ちになった。

「はい。ありがとうございます」
「お礼なら、今度直接子どもたちや孤児院の管理者から聞くといい。いや、もう聞いているかな?」
「ええ。もう、十分なほど……」

 子どもたちの笑顔が何よりの報酬だと伝えれば、テオバルトはそうかと嬉しそうに頷く。
 二人して微笑み合い、沈黙が落ちる。だが気まずいものではなかった。

 しかしテオバルトの眼差しにルティアは落ち着かなくなり、自分がここへ来た目的を思い出す。

「……殿下はもう、外国へは行かれないのですか」
「そうだな……。今でも定期的に手紙のやり取りはしているが……まぁ、新しい人間と知る機会は少なくなるな」
「世俗を捨てるならば、もっと減ってしまうのではないでしょうか」

 テオバルトのような存在は、絶対にこの国のために必要な逸材だ。
 だからどうかもう一度考え直してほしい。

 ルティアがそう促す前に、「いや、そうでもない」とテオバルトが答えた。

「同じ宗教に属しているから、教会を通して他国へ行くことが可能だ。むしろ聖職者であるぶん、いろいろ口出ししやすくなるかもしれん。野蛮な武器を捨てて、対話こそ平和を作る道だと説いて……うん。王子である俺が言うより、より説得力が増すんじゃないか?」

(だめだわ……)

 どんな道であれ、テオバルトはきっと自分のしたいことをする。それだけの力があるのだ。

「なぁ、ルティア。俺にばかり聞くが、あなたはどうなんだ」

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