前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
「また、明日も来てくれるか?」

 帰宅時。テオバルトと過ごす時間はあっという間に過ぎ、彼は御者のもとまで送り届けてくれた。こうして送ってくれるのは毎回である。衛兵がそばについているのでそこまでする必要はないと言っても、「あなたのそばにいる時間を少しでも伸ばしたいんだ」と少しも照れずに懇願して頼むので、どうして断ることができようか。

「はい。……また、明日」
「ああ。あなたに会うのが今から待ち遠しい」

 ルティアではなく、後ろで聞いていた衛兵の方が動揺を晒していた。

「殿下……」
「最後に名前を呼んでくれないか?」

 ルティア、と甘い声で頼まれれば、いくら自分でも平静ではいられない。

「……テオバルト様。どうかお仕事の続き、頑張ってくださいね」

 テオバルトが少年のように笑って、もちろんだと答えた。

 盗み見るようにこちらを窺っていた人々は、彼の笑顔の眩しさに、自分が言われたかのように頬を染める。

「ルティア?」
「あ、いえっ、ではわたしはこれで失礼いたします!」

 ルティアは自分たちが注目されている状況に恥ずかしくなり、急ぐように馬車へと乗り込んだ。そしてテオバルトが自分の名前を呼んで、まるで今生の別れだというように手を振ってくるのを俯いて無視しようとしたが、結局顔を上げて、控え目に振り返した。

(あんな目で見られたら、逸らすことなんてできない)

 テオバルトの姿を目に焼きつけるように見つめ返す自分がいる。

(わたしはもう……)

 今まで頑なに拒んでいた心が揺れているのがわかる。
 前世とか関係なく、テオバルトと同じ道を歩みたい。幸せに――

(なんて、欲深いのかしら……)

 ルティアは自分を戒めるようにぎゅうっと手を痛いほど握りしめるのだった。

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