前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
25、リーヴェスの狂気
ルティアは目を開けた。ゆっくりと起き上がり、自身の身体を抱きしめる。幾筋もの涙があふれ、肩を震わせた。
「陛下」
顔を上げ、目の前にいる男を見つめた。
「リーヴェス」
「泣いていらっしゃるのですか」
ルティアは寝台に寝かされていた。見たこともない部屋で、カーテンの引かれていない窓の外は暗かった。
椅子に座っていたリーヴェスは立ち上がって、こちらへゆっくりと近づいてくる。手を伸ばし、ルティアの涙を拭おうとした。その手を彼女は思いきり振り払う。
「わたしに触るな」
ゾッとするほど冷たい声が自分の喉から発せられた。
音を立てて振り払われたリーヴェスは目を丸くしたものの、なぜか嬉しそうに微笑んだ。その笑みにぞくりとする。
「ああ、その冷たい口調は陛下そのものです」
彼は恍惚とした表情でルティアの頬を掌で挟み、紫色の瞳を見つめさせた。
「やはりあなたは生まれ変わっても、善行を尽くしても、あの冷たく美しい陛下のままなのですね」
ルティアは悍ましさを覚えたものの、熱を持ったリーヴェスの目にスッと激情が冷めた。
「アリーセ女王は死にました。今のわたしは、ただの貴族の娘にすぎません」
リーヴェスはハッとしたように手を放した。
「申し訳ありません」
素直に謝罪され、ルティアは訝しむようにリーヴェスを見やる。
「突然触れられて、さぞご不快だったでしょう」
狂気に染まっているかと思えば、彼は以前会った時のように紳士的に謝罪した。ルティアは逆に怖くなるも、平静を装い、寝台から降り、窓際へと寄る。見える景色は暗くてよく見えないが、湖があり、その先には森がどこまでも続いていた。
「……ここは、どこですか」
「公爵家が所有している別荘の一つです」
「わたしをこんなところに連れてきて、一体何が目的ですか」
振り返り、毅然とした態度で問いただす。
「ずいぶんと、落ち着いていらっしゃいますね」
普通あんなかたちで意識を失わされて遠い地へ誘拐されたとあれば、もっと錯乱するものだろうが、ルティアには先ほど見た前世の記憶の方がよほど恐ろしく、感覚が麻痺していた。
「質問に答えて」
「あなたには、今日からここで暮らしてもらいます」
「……正気ですか」
「はい」
リーヴェスの自分を見る目は、まるで間違いを正すようにどこまでも真剣だった。ルティアは小さくため息をつき、首を振った。
「そんなの、無理に決まっています。王宮では今頃わたしがいなくなったことで大騒ぎになっているでしょう。あのご令嬢たちを脅して事に及んだのでしょうが、きっと殿下が――」
「あなたがいつか見つかるのは、承知の上です」
リーヴェスは冷静な口調で微笑んだ。
「見つかった時、あなたが私と結婚する状況になっていればいいのです」
「陛下」
顔を上げ、目の前にいる男を見つめた。
「リーヴェス」
「泣いていらっしゃるのですか」
ルティアは寝台に寝かされていた。見たこともない部屋で、カーテンの引かれていない窓の外は暗かった。
椅子に座っていたリーヴェスは立ち上がって、こちらへゆっくりと近づいてくる。手を伸ばし、ルティアの涙を拭おうとした。その手を彼女は思いきり振り払う。
「わたしに触るな」
ゾッとするほど冷たい声が自分の喉から発せられた。
音を立てて振り払われたリーヴェスは目を丸くしたものの、なぜか嬉しそうに微笑んだ。その笑みにぞくりとする。
「ああ、その冷たい口調は陛下そのものです」
彼は恍惚とした表情でルティアの頬を掌で挟み、紫色の瞳を見つめさせた。
「やはりあなたは生まれ変わっても、善行を尽くしても、あの冷たく美しい陛下のままなのですね」
ルティアは悍ましさを覚えたものの、熱を持ったリーヴェスの目にスッと激情が冷めた。
「アリーセ女王は死にました。今のわたしは、ただの貴族の娘にすぎません」
リーヴェスはハッとしたように手を放した。
「申し訳ありません」
素直に謝罪され、ルティアは訝しむようにリーヴェスを見やる。
「突然触れられて、さぞご不快だったでしょう」
狂気に染まっているかと思えば、彼は以前会った時のように紳士的に謝罪した。ルティアは逆に怖くなるも、平静を装い、寝台から降り、窓際へと寄る。見える景色は暗くてよく見えないが、湖があり、その先には森がどこまでも続いていた。
「……ここは、どこですか」
「公爵家が所有している別荘の一つです」
「わたしをこんなところに連れてきて、一体何が目的ですか」
振り返り、毅然とした態度で問いただす。
「ずいぶんと、落ち着いていらっしゃいますね」
普通あんなかたちで意識を失わされて遠い地へ誘拐されたとあれば、もっと錯乱するものだろうが、ルティアには先ほど見た前世の記憶の方がよほど恐ろしく、感覚が麻痺していた。
「質問に答えて」
「あなたには、今日からここで暮らしてもらいます」
「……正気ですか」
「はい」
リーヴェスの自分を見る目は、まるで間違いを正すようにどこまでも真剣だった。ルティアは小さくため息をつき、首を振った。
「そんなの、無理に決まっています。王宮では今頃わたしがいなくなったことで大騒ぎになっているでしょう。あのご令嬢たちを脅して事に及んだのでしょうが、きっと殿下が――」
「あなたがいつか見つかるのは、承知の上です」
リーヴェスは冷静な口調で微笑んだ。
「見つかった時、あなたが私と結婚する状況になっていればいいのです」