前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
 首筋に顔を埋められる。息を吹きかけられる。気持ち悪い。怖い。跳ね除けられない自分の非力さが悔しくてたまらない。

「ちがう……こんなふうにあなたは、愛さなかった……」

 ただ苦痛に顔を歪ませ、必死で自分を視界に入れないようにして、義務としてこなしていただけ。それをずっと、何度も何度も、ルティアは下から見上げて、人形のように抱かれていた。

 悔しくて、やるせなくて、でも逃げることはできず無理矢理のみこんで……あんなのは決して愛ではない。愛だとは認めたくなかった。

「あなたはわたしを愛していない」

 手首から指を絡まされ、恋人のように握りしめられる。でもその力はとても強くて、痛かった。

「あなたを失って、とても後悔しました。何度も、あなたの言葉や表情、最期が思い出されて……!」
「っ……」

 指を折られるのではないかと思うほどの痛みに、ルティアは顔を歪ませた。

『もしまた何かあったら、今度は股間を蹴り上げてやればいい』

 そこを狙うのはさすがに可哀想だったので、代わりに脇腹を思いきり蹴り上げる。

「ぐっ……」

 上手くきまったのか、リーヴェスは力を緩めた。その隙を逃さず、ルティアは彼を押しのけ、部屋の外へと飛び出す。

(とにかく外へ出よう!)

 窓はなく、ただどこまでも続く長い廊下を走る。人っ子一人出くわさないのは、運がいいのか悪いのか。曲がり角をいくつか曲がると、ようやく下へ行く階段を見つけた。きっとこの先を行けば出口が見つかるはずだ。

 ルティアは手すりに手を添えながらも、転がり落ちるように一階を目指して降りていく。

(早く、早く、テオバルト様にっ……)

 自分がここにいることを知らせたい。助けてもらおうとかそういう気持ちよりも、彼を安堵させたくて、今の自分の気持ちを伝えたかった。

 数段先に重厚な扉が見え、勢いのままぶつかってしまう。だが気にせず、扉を前へ押した。開かない。今度は引いてみるも、やはり開かなかった。

「外から、閂がかけられているんだわ……」

 どうやって開けさせるか、きっと他に外へ繋がる道があるはずだ、と思っていると、何かが激しく割れる音が聴こえた。振り返れば、最上階の踊り場から見下ろすリーヴェスの姿があった。彼は感情の抜け落ちた表情でルティアに告げる。

「あの男への元へは、行かせません」
「リーヴェス……」

 彼は慌てもせず、ゆっくりと階段を降りてくる。綺麗に整った顔立ちは、幽鬼のように青ざめている。

「あなたはもう一度、この城で私とやり直すんです」

(この男はもう狂っている)

 ルティアはとにかく彼に捕まっては終わりだと、ルティアはその場から逃げ出した。

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