前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
26、前世の罪
「ふふ。逃げる場所はどこにもありませんよ……」
城の作りは複雑だった。要塞も兼ねているのだろう。侵入者を捕まえるために残酷な仕掛けがあると聞いたことを、こんな時に限って思い出してしまう。
本当に逃げ切れるどうか、走っているうちに突然床下が抜けて剣山に落下したり、両側の壁が動いて自分の身体を挟み込むのではないかという恐怖に襲われる。
(こわい……だれかっ……)
恐怖から逃れるように足を動かし、やみくもに部屋に飛び込んでは使用人だけが使う通路から逃げ出す。少しでもリーヴェスを撒くために。
「はぁ、はぁ……行き止まり?」
そうしてたどり着いた先は、見上げるほど高い天井に、精緻な模様が彫られた太い柱が奥まで続く道を作っていた。
(まるで教会みたい……)
壇上があり、行き止まりの壁には聖人が描かれたステンドグラスがはめられている。昔住んでいた城主夫妻や使用人が祈りや結婚などの祭儀を執り行うために建てられたのだろう。
「陛下。ここにいらしたんですね」
(リーヴェス!)
彼がこちらへ来るのがわかり、ルティアは急いで分厚い扉を閉めようとする。
「陛下。意地悪な真似をなさらず、開けてください」
「いやっ、来ないでっ」
彼女は懸命に扉を押さえて侵入者を防ごうとしたが、男女の差には勝てなかった。
「陛下」
開いた隙間から手が伸びてくる。ルティアは悲鳴を上げて、奥へと逃げ込む。いくつもの蝋燭が火を灯しており、ゆらゆらと暗闇の中揺れている。ステンドグラスに描かれた聖人たちの絵が、まるでルティアを断罪するように見下ろしている。
「陛下。残念ながらその先は行き止まりです」
「来ないで……」
いくつもの揺らめく火が、前世の記憶と重なる。
(リーヴェス……カイ……)
まだ思い出していない記憶まで蘇りそうで、ルティアは縋るように腕を抱きしめた。
「ちょうどよかった。ここで華燭の典を挙げる予定だったんです」
「何を、言っているの」
「前世の私たちは、お互いに見向きもしなかった。私はあなたの花嫁姿をもう一度、この目に焼きつけたい。そして今度こそ、あなたに綺麗だと伝えたい」
リーヴェスの足が壇上へ続く階段にかかる。同じ目線で、ルティアを見つめる。
「やり直しましょう、陛下。何もかも。私とあなたは、今度こそ――」
「やり直すことなどできないわ」
ルティアは緊張と恐怖、そして強い怒りでどうにかなってしまいそうだった。
「リーヴェス。わたしは決してあなたと一緒にはならない」
「――そこまで、私を拒むのですか」
その通りだと、ルティアは彼から逃げようとした。だが呆気なく捕まえられ、今度は首へと手をかけられる。たたらを踏んで、もつれるように二人して床へと倒れ、馬乗りになられる。
「あの男のもとへ行くつもりですか」
「うっ……」
「一体あの男のどこがいい! あなたはあの男に殺されたというのに! なのにどうしてあんな安らかな顔をして!」
城の作りは複雑だった。要塞も兼ねているのだろう。侵入者を捕まえるために残酷な仕掛けがあると聞いたことを、こんな時に限って思い出してしまう。
本当に逃げ切れるどうか、走っているうちに突然床下が抜けて剣山に落下したり、両側の壁が動いて自分の身体を挟み込むのではないかという恐怖に襲われる。
(こわい……だれかっ……)
恐怖から逃れるように足を動かし、やみくもに部屋に飛び込んでは使用人だけが使う通路から逃げ出す。少しでもリーヴェスを撒くために。
「はぁ、はぁ……行き止まり?」
そうしてたどり着いた先は、見上げるほど高い天井に、精緻な模様が彫られた太い柱が奥まで続く道を作っていた。
(まるで教会みたい……)
壇上があり、行き止まりの壁には聖人が描かれたステンドグラスがはめられている。昔住んでいた城主夫妻や使用人が祈りや結婚などの祭儀を執り行うために建てられたのだろう。
「陛下。ここにいらしたんですね」
(リーヴェス!)
彼がこちらへ来るのがわかり、ルティアは急いで分厚い扉を閉めようとする。
「陛下。意地悪な真似をなさらず、開けてください」
「いやっ、来ないでっ」
彼女は懸命に扉を押さえて侵入者を防ごうとしたが、男女の差には勝てなかった。
「陛下」
開いた隙間から手が伸びてくる。ルティアは悲鳴を上げて、奥へと逃げ込む。いくつもの蝋燭が火を灯しており、ゆらゆらと暗闇の中揺れている。ステンドグラスに描かれた聖人たちの絵が、まるでルティアを断罪するように見下ろしている。
「陛下。残念ながらその先は行き止まりです」
「来ないで……」
いくつもの揺らめく火が、前世の記憶と重なる。
(リーヴェス……カイ……)
まだ思い出していない記憶まで蘇りそうで、ルティアは縋るように腕を抱きしめた。
「ちょうどよかった。ここで華燭の典を挙げる予定だったんです」
「何を、言っているの」
「前世の私たちは、お互いに見向きもしなかった。私はあなたの花嫁姿をもう一度、この目に焼きつけたい。そして今度こそ、あなたに綺麗だと伝えたい」
リーヴェスの足が壇上へ続く階段にかかる。同じ目線で、ルティアを見つめる。
「やり直しましょう、陛下。何もかも。私とあなたは、今度こそ――」
「やり直すことなどできないわ」
ルティアは緊張と恐怖、そして強い怒りでどうにかなってしまいそうだった。
「リーヴェス。わたしは決してあなたと一緒にはならない」
「――そこまで、私を拒むのですか」
その通りだと、ルティアは彼から逃げようとした。だが呆気なく捕まえられ、今度は首へと手をかけられる。たたらを踏んで、もつれるように二人して床へと倒れ、馬乗りになられる。
「あの男のもとへ行くつもりですか」
「うっ……」
「一体あの男のどこがいい! あなたはあの男に殺されたというのに! なのにどうしてあんな安らかな顔をして!」