前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
馬車に乗って王宮へ向かい、従者から茶会の席へと案内される。参加者は母と同じくらいの夫人からその娘と思われる令嬢たちで構成されていた。
「みなさん。今日は集まってくれてどうもありがとう」
今回の主催者である王妃カーラが艶やかな笑みでお礼を述べ、茶会は始まった。
「息子がそろそろ帰国する予定なの」
王妃には三人の息子がおり、みなそれぞれ優秀な人物としてこの国に尽くしている。
その中で今回話の中心となっているのは三番目の王子、テオバルトのことだった。王子であるがずっと外国を遊学しており、どんな人物であるかルティアはあまり知らない。
(噂では美青年だけれど、とても怖い威圧感を放っているとか聞くわ……)
「テオバルト殿下は素敵な方ですから、もしかすると将来のお嫁さんも一緒に連れて帰ってくるかもしれませんわね」
テオバルトのことを知っている夫人が微笑ましそうに言った。中にはどこかショックを受けたような顔をしている令嬢もおり、彼の人気が密かにうかがえた。
「どうかしら……。いっそ本当にそうしてくれると助かるのだけれどね……」
母親にこうまで心配されるとはよほど第三王子は女っ気がないようだ。
「留学も幼い頃に突然言い出して……まだ十歳だったのよ? とりあえず隣国で一年だけ、という約束だったのに、そのまま他の国にも行ってしまって……もうかれこれ十年以上経ったなんて信じられないわ」
(王太子殿下のご成婚の際などには帰国されていたみたいだけれど、いずれも短い滞在期間だったと聞くし……もしかしてじっとしていられない性格なのかしら)
「でも我が国が他国と良好な関係を築けているのも、テオバルト殿下のおかげだとお聞きしますわ」
テオバルトは各国の王太子や国王に気に入られ、国同士のトラブルがあった際も仲裁に入って手際よく処理しているという。いわば外交官のような仕事を王子自ら行っているわけだ。話を聴くだけでも、実に立派な人だと思う。
しかし王妃の顔は浮かないままであった。
「もう二十歳も過ぎたのだから、そろそろこの国に腰を据えて、家庭を築いてほしいものだわ……」
王妃といっても、一人の母親。息子を心配する姿に、みな気づかわしげな目をして、王妃を慰める。
「あら、ごめんなさい。愚息のことばかりお話してしまって……。みなさんはどうなのかしら」
ルティアはどきりとする。この手の話は苦手だった。目立たないようひっそりと肩を竦め、存在を消そうとするが、「あら」という弾んだ声に嫌な予感がした。
「そういえばミーゼス侯爵夫人のご令嬢はまだ誰とも婚約なさっていなかったわよね?」
(ああ、捕まってしまった……)
「ええ、そうなんですの。私もいろいろと気にかけているんですけれど、娘の方があまり気乗りしないみたいで……」
(お母様、王妃殿下に話しかけられて嬉しいのはわかるけれど、どうか余計なことを話さないで……)
「あら、そうなの? もしかしてご両親に言えない良い人がもういるとか?」
「まぁ、そうなの? ルティア」
「まさか!」
とんでもない誤解だとルティアは慌てて否定した。母はほっとした様子で、王妃殿下は「では、どうして?」と柔らかい口調であるが追究の手を緩めない。他の女性陣も興味津々の様子でルティアの答えを待っている。
「ただ……今はまだ結婚する気がないだけです」
それ以上は話したくないと俯けば、あれこれ聞いてしまって悪かったと思ったのか、「わかったわ。いろいろ追究してしまってごめんなさいね」と王妃は謝ってくれた。母も隣からそっと手を伸ばし、膝に置いていた娘の手をそっと撫でた。
「そういえば、そちらのお嬢さんは結婚間近なそうね」
別のご令嬢に興味が移り、ルティアは内心ほっとする。その後も目まぐるしく話題は代わり、ようやく終わった頃にはほとほと疲れ果ててしまった。
「みなさん。今日は集まってくれてどうもありがとう」
今回の主催者である王妃カーラが艶やかな笑みでお礼を述べ、茶会は始まった。
「息子がそろそろ帰国する予定なの」
王妃には三人の息子がおり、みなそれぞれ優秀な人物としてこの国に尽くしている。
その中で今回話の中心となっているのは三番目の王子、テオバルトのことだった。王子であるがずっと外国を遊学しており、どんな人物であるかルティアはあまり知らない。
(噂では美青年だけれど、とても怖い威圧感を放っているとか聞くわ……)
「テオバルト殿下は素敵な方ですから、もしかすると将来のお嫁さんも一緒に連れて帰ってくるかもしれませんわね」
テオバルトのことを知っている夫人が微笑ましそうに言った。中にはどこかショックを受けたような顔をしている令嬢もおり、彼の人気が密かにうかがえた。
「どうかしら……。いっそ本当にそうしてくれると助かるのだけれどね……」
母親にこうまで心配されるとはよほど第三王子は女っ気がないようだ。
「留学も幼い頃に突然言い出して……まだ十歳だったのよ? とりあえず隣国で一年だけ、という約束だったのに、そのまま他の国にも行ってしまって……もうかれこれ十年以上経ったなんて信じられないわ」
(王太子殿下のご成婚の際などには帰国されていたみたいだけれど、いずれも短い滞在期間だったと聞くし……もしかしてじっとしていられない性格なのかしら)
「でも我が国が他国と良好な関係を築けているのも、テオバルト殿下のおかげだとお聞きしますわ」
テオバルトは各国の王太子や国王に気に入られ、国同士のトラブルがあった際も仲裁に入って手際よく処理しているという。いわば外交官のような仕事を王子自ら行っているわけだ。話を聴くだけでも、実に立派な人だと思う。
しかし王妃の顔は浮かないままであった。
「もう二十歳も過ぎたのだから、そろそろこの国に腰を据えて、家庭を築いてほしいものだわ……」
王妃といっても、一人の母親。息子を心配する姿に、みな気づかわしげな目をして、王妃を慰める。
「あら、ごめんなさい。愚息のことばかりお話してしまって……。みなさんはどうなのかしら」
ルティアはどきりとする。この手の話は苦手だった。目立たないようひっそりと肩を竦め、存在を消そうとするが、「あら」という弾んだ声に嫌な予感がした。
「そういえばミーゼス侯爵夫人のご令嬢はまだ誰とも婚約なさっていなかったわよね?」
(ああ、捕まってしまった……)
「ええ、そうなんですの。私もいろいろと気にかけているんですけれど、娘の方があまり気乗りしないみたいで……」
(お母様、王妃殿下に話しかけられて嬉しいのはわかるけれど、どうか余計なことを話さないで……)
「あら、そうなの? もしかしてご両親に言えない良い人がもういるとか?」
「まぁ、そうなの? ルティア」
「まさか!」
とんでもない誤解だとルティアは慌てて否定した。母はほっとした様子で、王妃殿下は「では、どうして?」と柔らかい口調であるが追究の手を緩めない。他の女性陣も興味津々の様子でルティアの答えを待っている。
「ただ……今はまだ結婚する気がないだけです」
それ以上は話したくないと俯けば、あれこれ聞いてしまって悪かったと思ったのか、「わかったわ。いろいろ追究してしまってごめんなさいね」と王妃は謝ってくれた。母も隣からそっと手を伸ばし、膝に置いていた娘の手をそっと撫でた。
「そういえば、そちらのお嬢さんは結婚間近なそうね」
別のご令嬢に興味が移り、ルティアは内心ほっとする。その後も目まぐるしく話題は代わり、ようやく終わった頃にはほとほと疲れ果ててしまった。