前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
(子を作ることは……こんなにも虚しい……)

 身体を繋げているのに、心は通じ合わず、むしろますます離れていく行為でも、アリーセは仕方がないと自身に言い聞かせ続けた。いっそ痛みを伴う行為だったら、心が虚しくなる暇はなかっただろうか。

『陛下は見かけほど、冷たい方ではないのですね』

(カイ……)

 なぜこんな時に彼の顔が思い浮かぶのだろう。どうして心臓のあたりが痛むのか。

 アリーセは知らないまま、抱かれ続けた。辛いのは自分だけではない。王配として選ばれたリーヴェスも同じ苦痛を味わっているのだからと言い聞かせて……。

「おめでとうございます。ご懐妊でございます」

 医師から確かにそう告げられた時、これでようやく役目を果たせると深く安堵した。同時に、自身のお腹に一人の命が宿ったことを不思議に思った。アリーセが今まで知ることのなかった思い。

「おめでとうございます」

 アリーセの懐妊に日頃冷たかった貴族たちも祝福した。彼らはたぶん、アリーセではなく、リーヴェスの子として祝ったのだろう。リーヴェスの血を引いた大事な後継者として。

「陛下。どうかお身体に気を配り、公務は私どもにお任せください」

 子ができたことでリーヴェスも以前より話しかけることが増えたが、その内容はアリーセが女王として働くことをよしとしないものばかりだった。

 彼がアリーセを休ませようとするのは十分よくわかる。ようやく授かった命だ。何かあっては、これまでの苦痛がすべて無駄になる。そして周りも……

「これで陛下が無事に王子を産めば、安泰ですな」
「ああ。リーヴェス殿も陛下の機嫌をとる必要はない」
「扱いにくい陛下には早く退位してもらい、リーヴェス殿と生まれた子どもでこの国を支えていけばいい」

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