前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
 偶然聞いてしまった話を、アリーセはどう処理すればいいかわからなかった。

「そのようなこと、決して口にしてはいけない」

 一緒に話を聞いていたリーヴェスが失言した者たちを厳しく咎める。自分たちの仕えるべき主はアリーセなのだから、邪な考えは持ってはいけないと。

 そう説き伏せるリーヴェスの姿こそ、アリーセには本物の王に見えた。発言した者たちも眩しそうにリーヴェスを見つめ、謝罪している。

(わたしは……女王としても相応しくなかった……)

 それもまた、運命なのかもしれない。望まれぬ王より、慕われる者を王にした方がいい。

(けれど今はまだ、引けない)

 恐れていた戦争が始まってしまったから。

 カイが言っていた言葉が本当ならば、自分の存在は敵側にとって脅威となる。利用しない手はない。悪評でも何でもいい。使えるものはすべて使ってこの国を守る。化け物として君臨し続け、女王としての責務を果たそう。

 アリーセはつわりに苦しめられながらも会議に出席し、戦争を続ける旨を訴えた。議会は荒れた。リーヴェスも諫めた。相手側と交渉して、降伏の条件を呑むことも提案されたが、決して首を縦に振らなかった。

 戦場では剣だけでなく最近新しく開発された銃という武器も使用されている。被害は拡大する一方だったが、アリーセは戦い続ける道を選んだ。

 戦争が長引くことの不満はすべてアリーセ本人に集中したが、彼女はちょうど産気づき、長いお産で苦しむこととなったので、一時矛は収められることとなった。

(痛い……苦しい……)

 日を跨いで苦しみ続けても、子は産まれようとしてこない。もうだめかもしれない……そう思いかけた時、ようやく微かな産声が聴こえ、子どもが生まれた。

「おめでとうございます。女の子でございます」

 男児を期待されていたが、女児であった。

「王太子を産むことができなかったか」

 周囲は落胆したが、アリーセは生まれた子を腕に抱き、万感の思いだった。愛おしい、と初めて母性が生まれた瞬間であった。

「陛下……」
「リーヴェス」

 リーヴェスも我が子を愛おしそうに抱き上げてくれた。アリーセを見つめる目も、優しく、不思議とこれから彼との関係性も上手くいく気がした。

 だがそれはアリーセだけだった。彼は子どもは愛しても、自分を愛することはなかった。

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