前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
35、王配の娘
父は優しい人だ。娘の贔屓目ではなく、周りの人々の評価もそうだった。公正明大で奉仕活動にも励んでいる人格者。
そんな父が傲慢で冷酷な女王を嫌い、偶然知り合った母と深く愛し合い自分を産んだのは仕方がないことだった。祖父母も父が本当に愛しているのは母で、娘である自分を誰より大切に思っていると何度も言ってくれた。だから自分を王都から遠く離れた祖父母の領地に預け、狂った女王の魔の手が届かないようにしているのだとも。
父は将来的には自分をどうするつもりだったのか。たぶん何があっても娘を守ってくれる男性に嫁がせるつもりだった。出産と共に亡くなった母の代わりに、政略結婚で愛のない妻を得た代わりに、せめて娘だけは幸せな結婚をして家庭を築いてほしいと願っていたはずだ。
それらは女王が処刑されたと聞いた時、すべて叶う願いだと思った。
王宮へ呼ばれたのも、ずっと離れ離れになっていた父と暮らすため。これからは女王の圧政が終わり、家族と幸せに暮らせると信じて疑わなかったのに……。
「女王になってほしい」
娘を抱きしめたあと、父は苦しそうな顔で言った。その顔は以前会った時よりずっと老け込んでおり、生きながら死んでいるような苦痛が刻まれていた。
きっと女王の狂気が父をそうさせたのだ。可哀想な父は誰よりも愛おしく思っていた娘の自分に重荷を背負わせなければならず、さらに心を痛めているのだ。
女王になる。それは父だけでなく、周りの貴族たちにも懇願された。
嫌だ、無理だと拒絶することはできなかった。
父が王配から王として国を治めることを、周囲の国が許さなかったから。彼らは女王が死んだと聞くや否や、もう何も恐れるものはないと終わったはずの戦争を再開させた。
不運にもこれまで勝ちに導いてきた奴隷上がりの将軍が戦死していたことで、戦況は最初から彼らに有利だった。国土は蹂躙され、これ以上の被害を出さないために、父と王都の貴族たちは降伏した。提示された賠償金の支払い、そして先に述べたように父の統治ではなく、娘である自分と、敵国から婿入りする王子との共同統治が条件としてのまされた。
賠償金を用意するために税金を上げ、有力諸侯や聖職者たちに大きな借りを作った。国民からも不満の声が上がり、やすやすと降伏を受け入れた王家と側近たちに失望と不信感を募らせた。そしてあんなに嫌っていた女王陛下の死を嘆き悲しみ、彼女が生きていたらきっとこうはならなかっただろうと当て擦りのように囁いた。
「すまない。けれどおまえの優しさと美しさなら、きっと相手の王子も気に入り、幸せにしてくれるはずだ」
父が母の優しさに惹かれたように、娘である自分も王子の心を癒せる。
父はそう言って、娘の運命を慰めた。
そんな父が傲慢で冷酷な女王を嫌い、偶然知り合った母と深く愛し合い自分を産んだのは仕方がないことだった。祖父母も父が本当に愛しているのは母で、娘である自分を誰より大切に思っていると何度も言ってくれた。だから自分を王都から遠く離れた祖父母の領地に預け、狂った女王の魔の手が届かないようにしているのだとも。
父は将来的には自分をどうするつもりだったのか。たぶん何があっても娘を守ってくれる男性に嫁がせるつもりだった。出産と共に亡くなった母の代わりに、政略結婚で愛のない妻を得た代わりに、せめて娘だけは幸せな結婚をして家庭を築いてほしいと願っていたはずだ。
それらは女王が処刑されたと聞いた時、すべて叶う願いだと思った。
王宮へ呼ばれたのも、ずっと離れ離れになっていた父と暮らすため。これからは女王の圧政が終わり、家族と幸せに暮らせると信じて疑わなかったのに……。
「女王になってほしい」
娘を抱きしめたあと、父は苦しそうな顔で言った。その顔は以前会った時よりずっと老け込んでおり、生きながら死んでいるような苦痛が刻まれていた。
きっと女王の狂気が父をそうさせたのだ。可哀想な父は誰よりも愛おしく思っていた娘の自分に重荷を背負わせなければならず、さらに心を痛めているのだ。
女王になる。それは父だけでなく、周りの貴族たちにも懇願された。
嫌だ、無理だと拒絶することはできなかった。
父が王配から王として国を治めることを、周囲の国が許さなかったから。彼らは女王が死んだと聞くや否や、もう何も恐れるものはないと終わったはずの戦争を再開させた。
不運にもこれまで勝ちに導いてきた奴隷上がりの将軍が戦死していたことで、戦況は最初から彼らに有利だった。国土は蹂躙され、これ以上の被害を出さないために、父と王都の貴族たちは降伏した。提示された賠償金の支払い、そして先に述べたように父の統治ではなく、娘である自分と、敵国から婿入りする王子との共同統治が条件としてのまされた。
賠償金を用意するために税金を上げ、有力諸侯や聖職者たちに大きな借りを作った。国民からも不満の声が上がり、やすやすと降伏を受け入れた王家と側近たちに失望と不信感を募らせた。そしてあんなに嫌っていた女王陛下の死を嘆き悲しみ、彼女が生きていたらきっとこうはならなかっただろうと当て擦りのように囁いた。
「すまない。けれどおまえの優しさと美しさなら、きっと相手の王子も気に入り、幸せにしてくれるはずだ」
父が母の優しさに惹かれたように、娘である自分も王子の心を癒せる。
父はそう言って、娘の運命を慰めた。