前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
 だが期待に応えることはできなかった。

 婿入りした王子は義務として自分を抱き、身籠らせたものの、愛は与えなかった。義務は果たしたからと、あとは故国から連れてきたお気に入りの侍女や宮中の夫人と次々と関係を持ち、そのうち本当に愛した女性との間に婚外子を作って、本当の家族として日々を過ごしている。

 自分も父も、何も言えなかった。どんなに屈辱的な仕打ちでも、我が国は敗戦国。勝った夫の国に生かされているに過ぎない。

 正しさや優しさなど、戦争において何の役にも立たないのだと、この時突きつけられた気がした。力で奪い、捻じ伏せる。強い方が勝ち、敗けた方は何もかもすべて奪われる。恭順の意を示すだけ。それが全てだった。

 それでも父だけは諦めず、どうか娘を大切にしてほしいと言葉を尽くして夫に伝えた。だがそんな父を夫は嘲笑い、こう返した。

 本来ならば、私が結婚する相手はあの娘ではなかった。偽物の娘ではなく、正統な女王の血を引いた娘ならば、私ももう少しまともに接しただろう。貴殿の国は我が国の温情で生き残ったというのに、まともな後継者すら用意できないのだな。
 
 いや、それはもうどうにもならないことだからいい。それに貴殿の愛しい娘が生まれた経緯を思えば、きっと今の私の気持ちをご理解できるはずだ。

 父は何も言い返せず、無駄に終わった。

 愛のない営みで生まれた我が子に夫は形式上祝福するも、最愛の女性との間にできた子どもほど愛してはくれない。あぁ、どうして夫はこの子を愛してくれないのだろう。敗戦国の妻とはいえ、自分たちは夫婦だ。どうしてこんなに目に遭わねばならない。

 夫の愛を図々しくも享受する女が憎らしい。その子どもを殺してしまいたい。

 苦しくてたまらない己の気持ちを父に訴えれば、父は真っ青な顔で今にも倒れそうだった。娘に必死で励ましの言葉をかけてくれるが、口にするたびに刃物で突き刺されているような辛そうな表情をする。

 父を擁護していた貴族も、夫の取り巻きに取って代わられ、操り人形しか残っていない。

 なぜこうも変わってしまったのだろう。

 あの時降伏せず戦い続けていれば……女王が生きていれば、何か変わっていただろうか。

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