前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
 違う。そんなはずない。そんなこと認めたくない。女王は父を苦しめた。今も、そうだ。

「ううっ……陛下……アリーセ……どうか、私をお許しください……私を、おいていかないでくださいっ……」

 周りには責められるばかりで、逃げ場を失くして、日に日に追い詰められていく父は酒に溺れるようになった。それでも毎晩毎晩魘され、女王の名前を叫んでいる。悪夢で与えられる女王の暴挙に許してくれと懇願している。

 傲慢な妻から解放されたはずなのに父の悪夢は終わらず、むしろ日に日に最悪な結果を迎えていく。

「そんな……賠償金はきちんと払っているというのに、まだ領地を欲するというのか……」
「払い終えていないからこそ、です。なに、担保のようなものですよ」
「しかし、あの土地は肥沃で農民たちも……」
「魅力的な土地だからこそ担保になるんです。反対する人間は切り捨てればいい」
「できない。そんな酷なこと……」
「あなたに反対する権利はありません」

 結局、その土地は理不尽な要求をした国に奪われ、返還されることは一生なかった。

 優しく正しさにあふれた父のことだから、誰よりもこの国の現状を嘆き、自身の力不足を歯痒く思ったはずだ。

 女王のことを誰かに尋ねられた時も、固く顔を強張らせるのは今でも彼女の仕出かしたことを憎み、止められなかった自分を悔いているからだ。父はどこまでも責任感の強い人だから。酒を浴びるほど飲んで泣き崩れてしまうのも、「アリーセ」と母ではない名前を何度も呼ぶのも、きっと女王陛下によって失われた理不尽な命を思ってだろう。

 女王が死んだ日に自殺を図ったのも、きっと、責任を感じてのことだった。

 そうに違いない。そうでなければ、おかしい。

 最愛の父を失った今、これから自分はどうしていけばいいのだろう。この国はどうなってしまうのか。

 いっそ狂気にとり込まれて、夫を殺してしまおうか。そうすればまた戦争が起こり、今度こそ国が滅ぶだろうが、自分の身に起きたことを考えれば、どうでもいいことに思えた。

 殺されてもいい。死んだら祖父母や、両親のもとへ行けるから。父はきっと母の隣で微笑んでいるはずだ。

 それともすでに生まれ変わって、母と再会して、今度こそ幸せになっているだろうか。

 わからないけれど、父が女王と一緒の所へ行けないのは確かだ。

 女王の心は永遠に、父のもとへは届かない。父はすべてを忘れて、幸せに生き続ける。

< 77 / 82 >

この作品をシェア

pagetop