前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
「そうか。ならば清く正しい関係を今は楽しむとしよう」

 と言いつつ、かなり際どいことをすでにされているのだが、テオバルトからすれば我慢している方なのだという。今も東屋のベンチに腰かけるや否や、ルティアを膝に座らせたまま、髪を指先で絡めて遊んでは、こめかみや頬に接吻してくる。そしてくすぐったそうにルティアが身を捩り、恥ずかしそうに俯けば、愛おしそうに耳元で囁くのだ。

「早くあなたと結婚して夫婦生活を楽しみたいという気持ちと、今の恋人同士の関係を味わいたいという思いで、俺は毎日胸がいっぱいなんだ」
「テオバルト様……」

 ルティアはテオバルトと結婚することを決めた。

 リーヴェスの一件で、前世の自分と今の自分に区切りがついたのだ。もちろん過去に犯した過ちを忘れたわけではない。これからも奉仕活動には勤しむ予定だ。

「あなたのご両親も、最近ようやく結婚を認めてくれるようになってきたからな」
「……お待たせしてしまって、ごめんなさい」
「いや、ご両親が心配するのは無理もない」

 ルティアが求婚を受け入れると、テオバルトはすぐにでも式を挙げようとしたが、ルティアの両親が渋ったのだ。

 リーヴェスに舞踏会で言い寄られただけでなく、誘拐までされて危うく死にかけたことを、娘以上にショックを受け、手放すことを恐れた結果でもある。

『殿下が娘を命懸けで救ってくれたことには感謝しても感謝しきれません。ですがしばらくの間は……私どもの手元で、あの子が落ち着くまで面倒をみたいのです』

 テオバルトは両親の気持ちを汲み、代わりに婚約者として屋敷へ通う許しを得た。

「これまではあなたが俺に会いにせっせと王宮へ通ってくれたからな。今度は俺の番だ」
「前も同じことをなさったはずですが……」
「あれはまだ友人の間柄だった。今は違う。いずれ結婚する相手、婚約者として、あなたに愛を伝えることができるんだ」

 テオバルトはルティアに会いに来るために、尋常ないほどの集中力を発揮して公務を片付けているらしい。クルトの泣いて喜ぶ顔が目に浮かぶ。

「ルティア。俺は幸せだ。結婚までの道のりを、こうして指折り数えていられることもすべて」

 テオバルトの言葉にルティアの心も熱くなる。

「テオバルト様……わたしも、同じ気持ちですわ」
「同じ気持ちとは?」
「……あなたを想って毎晩胸が苦しくなりますの」

 彼の心臓あたりをそっと服の上から撫でれば、そのまま手を掴まれ、また愛おしそうに口づけされる。先ほどは手の甲であったが、今度は掌だ。伏せていた目を上目遣いにして、ルティアを見つめてくる。

「ルティア。結婚したら、頼みがあるんだ」
「頼み、ですか……?」

 一体何だろうか。ルティアは自分にできることなら何でも叶えてあげたいと思った。

「どうぞ遠慮せずおっしゃってください。テオバルト様のためなら、わたし、何でもしますわ」

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